昭和20年代から30年代にかけて、
日本映画産業は我が世の春を謳歌しました。
東映時代劇の中村錦之助、大川橋蔵、美空ひばり。
日活アクション、青春映画の石原裕次郎、小林旭、吉永小百合。
銀幕のスターに観客は酔いしれました。
祖父の映画館も例外ではありませんでした。
あんまりお客さんが入りすぎて2階席の床が抜けた、
なんてこともあったようです。
現在の映画館の切符売場はガラス張りになっていて、
中の売り子さんの姿が全部見えますが、
当時の切符売場というのはあの小さな小窓だけで、
中の様子はまったく見えないようになっていました。
ということは逆に中からも外の人が見えないわけで、
上映時間が近づくと切符売場の前には黒山の人だかりです。
畳敷きの小部屋に座っていた母の目の前の小窓から、
百円札や千円札を握りしめた手が何本も何本も差し出されます。
その手からお金をもぎ取り、代わりに切符を握らせる、
切符を売るのも戦争のようだったと、
母が話してくれたことがあります。
一段落ついて膝の上を見るとお札の山。
それを風呂敷で包んで母屋に持って帰ります。
そして家族総出でお札のシワを、
アイロンで伸ばしたのだそうです。