橋本淳司『水問題の重要性に気づいていない日本人』(PHP研究所) | 前和光市長 松本たけひろ オフィシャルウェブサイト

橋本淳司『水問題の重要性に気づいていない日本人』(PHP研究所)

先般、お目にかかった水問題ジャーナリストの橋本淳司 さんの著書を読みました。

水問題を重要なテーマの一つとしてとらえている私としては「読んでよかった」と感じさせられる一冊。

本書は全体の構成としては、著者がお気楽な水好きから、水問題の本質に目覚めるまでの流れのなかで、読者に水問題について考えてもらおう、という作りになっています。


第一章はボトル入りで売られている水について、その中身や日本の「ミネラルウォーター」は実はあまりミネラルウォーターではない、という現状などを説明しています。

また、ボトル入り水の流通に多量の石油が使われていることやヨーロッパでは重視されている「水の中の生態系」(これを重視して、消毒しない)の話も興味深いです。

章の結びの水は金持ちに向かって流れる、という言葉が象徴的でした。


第二章は、過去の著者の名水探訪の話から入ります。

そして、群馬県が「水の特区」をつくり、ヨーロッパ同様、消毒なしの水を売ろうとして県内の26の有名な湧水を調査したところ、(あの群馬にさえ)一か所もそのまま水を飲み水として売れる場所がなかった、という事実が描かれます。原因は農業と畜産と生活の排水です。ヨーロッパでは取水源の保護が非常に重視されているのとは対照的です

次に、生活排水です。良くある話ですが、コップ一杯のビールを流すには、バケツ15杯、300リットルの水で薄めないと魚が住めないとか。ここで面白いのは著者がラーメン好きなのでとんこつラーメンと東京醤油ラーメンを比較しているところ。前者は家庭の風呂桶20杯分、後者は3.3杯分が必要という。

また工場排水についても、規制をあらゆる方法でかいくぐっている実態が描かれています。某食品会社のゼロエミッション工場(廃棄物ゼロ)、よくよく見ると「工業廃水は計算から除いて」いるらしいです。

さらに、湧水ブームで沸く各地で行われている他人そっちのけの大量持ち帰りの情けない姿についても、著者が各地の事情を見ているだけに、えぐい様子が描かれています(私のふるさと明石市の「亀の水」も行列が凄くて大変なことになっています。人ってなぜ、行列になると喧嘩になるんでしょうね…)。

国の姿勢も問題です。国内の「ボトル水」と欧米の「ミネラルウォーター」では水源保護への取り組みが天と地ほど違うという事実。

著者は「水を商品化することの問題性」を強調します


第三章。ここではいろいろな健康水などに関する論評。イオン水とかそういうマルチ商法な水をはじめ、整水器などの話が客観的に描かれている。バナジウム水の騙しの仕組みが面白かった。


第四章は、日本人がいかに大量の水を使っているか、そして、世界各国でいかに水が不足しているか。

1日320リットル使っている日本の子どもたちに一日50リットルの水で生活してもらう体験が面白かったですね。

また、食糧の輸入は水の輸入と同じである、という本書の視点もまた大切だと思いました。そういう意味では、日本は水の輸入大国なんですね。


第五章は中国で深刻になりつつある水不足事情。

バラバラに報道で見ているとわからないが、農業などのために黄河が最大700キロも干上がる、というような事態が毎年起こっているという。

また、日本の越境汚染もまた、まとめてよく描かれていて、恐ろしくなります。


第六章は水道の話。私が『自治体連続破綻の時代』を書いた時に調べたような内容かな、と思いました。この本があればもっと楽に書けたのに…。

ただ、興味深かったのは緩速処理(生物処理、緩速ろ過)が復権する兆しであるということ。これは、おいしい水を低コストで作る切り札なので、水利権などいろいろ問題はありつつ、和光市でもできればいいのに、と思います。

ただ、生物処理については匠の技的なものが必要で、あまり甘い幻想は持ってはならないという現実もあります。(著者より「そんなことないよ」とのコメントあり。私の知識は古かったらしいです。)

高度処理については、著者はちょっと良く書き過ぎかもしれません。著者も書いていますが高度処理はコストが高く、電気などもたくさん使います。都市部だからこそできる、と表現しているのですが、都市部の自治体の財政も逼迫しています。高度処理に未来はありません。

また、シンガポールが下水を高度処理して飲料水にしている話も興味深かったですね。


ということで、下水についてはあまり言及がない(残念)ものの、現代の水事情について、これほどまとまっていて読みやすい本はないのではないかと思います。

公務員、同業の地方議員はじめ、すべての日本人にお勧めします。


追記:著者よりコメントをいただました。その際、緩速処理の大御所・中本先生が信州大学を退職され、新しくNPO法人を立ち上げて活動を継続しておられることも教えていただきました。リンク先 をぜひご覧ください。また、橋本さんのサイトはリンク先 をご覧ください。


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水問題の重要性に気づいていない日本人 「おいしい水の話」から「酸性雨の話」まで