書評 幸田真音『凛冽の宙』 (小学館) | 前和光市長 松本たけひろ オフィシャルウェブサイト

書評 幸田真音『凛冽の宙』 (小学館)

経済小説は好きなのですが、この人ほど作品の出来不出来が激しい作家はあまりないですね。

たとえば『日本国債 』はトレーダーのスリリングな心理をうまく描写した秀作でしたし、そこそこマーケットについて分かるおトク感もあったのですが、この作品は全てが中途半端。

外資系証券会社の先輩後輩に当たる、正反対の倫理観を持つ2人の男、2人は同じ女性を愛した間柄。これはまあ普通の小説の人間関係でしう。そして、舞台は不良債権処理ビジネス、という、発売当時としてはタイムリーな内容で、読んでいくとものすごく期待が高まり、私のような金融に関係ある分野で働いていた人間なら、「おっ」と引き込まれていきます。

前半ではその女性もまた、ミステリアスで、引き込まれそうになります。ただ、後半まで読んで、ええっ、それで終わり、と私は怒りました。

肝心な金融商品の手口は表面しか語られないし、主人公の部下は外資系証券会社の30代とは思えない素人的な疑問を口に出すし、リアリティというか臨場感が希薄です。

さらに、映画的なカットバックの使い方が複雑すぎて素人の映像作品を見ているようなめまぐるしさで、前後が分からなくなります。

基本的な不良債権処理ビジネスのスキーム(仕組み)を理解している人だと物足りないと思います。

ただ、基本的な知識を得たい人だと役に立つかな、と思います。

そして、最後の締めも、「おいおい、そこまでかよ」という終わり方。裏の金融、マネーロンダリングの実情なども書き込んであると面白かったのですが、そこは興味を刺激しておいて終わり。

まあ、前半はドキドキできるので、十二分に元は取れると思います。

 

凛冽の宙 (小学館文庫)


ちなみに、サービサーとかバルクセールとか本当に理解したいなら、こっち(↓)の方がオススメ!

不動産処理ビジネスのエキスパートである岡内さんは、私の不動産ファイナンスや不動産評価の師匠です(岡内さんは笑って否定すると思いますが)。

岡内さんが小説家なら、不動産ファイナンスのえげつない作品が出来ると思いますが、出る出ると言われつつ出てきません。うーむ、楽しみ!?


岡内幸策
証券化入門 第3版―資産価値に基づくファイナンス手法のすべて