小泉改革の検証にお勧め『日本がアルゼンチンタンゴを踊る日』(B.フルフォード)再読
小泉政権初期並みの熱風がもたらした自民党の大勝から1カ月、ふと書棚を漁って小泉政権が始まったしばらく後(2002.10)に刊行されたこの本を思い出しました。いろいろと重要なことが書いてあったのを、ふと思い出したからです。
雑な紹介ですが、メモにしておくのもあれなので、アップさせていただきます。
本書の奇妙なタイトルは、第二次世界大戦後、もっとも豊かな国のひとつ、そして輸出立国であったアルゼンチンの没落(国債のデフォルト=バンザイ)に至る流れに日本の没落を重ね合わせたもので、発売当時、話題になったものです。
カナダ人ジャーナリストのフルフォードはカナダ生まれで、アルゼンチンなど世界各国での子ども時代の後、上智大学比較文化学部、ブリティッシュコロンビア大学を経て来日、ジャーナリストとして活躍しています。
彼が尊敬できるのは、自由にモノがかけない「フォーブス」誌の東京支局長を辞して、フリーになったということ。安定より正義・真実。日本人には恥ずかしいような言葉ですが、本来、それは誇らしい言葉だと思います。ムラ社会のルールが法や正義より優先する日本社会こそがおかしい、最近それを感じますが、彼の影響を私も受けているのです。昨年、実際にお会いして、彼に接したとき、これがジャーナリストか、と思った記憶があります。
以下、私が確認したかったこと、つまり大切だと思うことをダイジェストします。
この本は読みやすいので、気になる方はぜひご自身でお読みください。
なお、アルゼンチンの話題は本書のほんの一部です。
◎アルゼンチン経済の崩壊過程は他人事ではない
・戦後は輸出立国だった
アルゼンチンは日本と同様、19世紀後半から20世紀前半に大発展した国で第二次大戦後は戦争のダメージを受けなかったために、大食料輸出国として貿易黒字を稼ぎまくっていました。
・保護主義、自国主義の台頭
しかし、この好況に乗って自国中心主義者のペロンが規制主義の経済へと転換を行い、産業の国有化と自国生産化を進めました。
・農業の停滞、国際競争力の低下
結果は、最大の稼ぎ頭だった農業の停滞、国際競争力の低下でした
その後は保守政権と軍政が交代のように政権につき、混乱が続きます。
最後に国債が飛んでしまったとき、多くの日本人はせせら笑いました。明日はわが身、と考えた人はいたのですが、多数派ではなかったようです。
最後にアルゼンチンが力尽きたのは、改革がすべて失敗したから。
(このどこが笑えますか?
今の日本とそっくりじゃないですか。何を踊りましょうかね。)
◎ 裏社会
日本の不良債権問題、パチンコ業界問題、北朝鮮問題(以下は松本が追加。産廃、残土、内湾の浅瀬の砂利の盗掘などの問題)など、多くの問題と裏社会の関係は私たち日本人には、知っていても手が出ない問題です。彼は鋭くこの裏社会問題に切り込みます。そして、政財界と裏社会の関係について批判します。
北朝鮮問題が進捗しないのは、政界中枢にも暴露されては困る人々がいるからだとか。不良債権問題もそう。(まあ、そうなんでしょう。)
なお、後々、この部分はより詳細に取材され、『ヤクザリセッション 』として刊行されます。
◎ 記者クラブ
本書は的確に記者クラブ制度の弊害について語ります。そのムラに入ると情報を流してもらえるが、そのしがらみ、ルールに縛られて自由にモノが書けなくなります。
そして、ここを通して官邸はマスコミを支配し、統制しているのです。そこには、膨大なタブーがあります。(ちなみに、もうひとつの統制ルートは電通ルート。)
本当に知りたいことが新聞には見つからないのがその証拠です。それらは知らないからではなく書けないからなのです。
彼は一番良い情報源は右翼の街宣車、そして、次に夕刊紙、大衆週刊誌を信用し、大マスコミは信用しない、そして、最も信用しないのがNHKだと述べています。
この部分は拡大されて、後日、『日本マスコミ<臆病>の構造』という書名で刊行。後日紹介します。
◎ アジア金融危機は日本発の経済パニックのミニ版
アジア諸国の経済パニックは1997年、日本の金融引き締めが原因で起こり、アジア諸国の経済を大混乱に陥れました。拓銀の破綻を契機に100兆円規模の資本が日本に引き上げられたため、タイや韓国の経済が回らなくなったのです。日本経済のくしゃみで、アジア諸国の繁栄が吹き飛んだということです。
日本経済がハードランディングをすれば、とんでもないことになる。
誰もがそう思いました。
次はもっと大きな何かがあれば、世界経済がめちゃくちゃになります。
(当時、私はある経済出版社で仕事をしていたのですが、たまたま転職、別の出版社の元経済誌編集長だった上司にいろいろな話を聞きに連れて行っていただきました。どこでも聞かれたのは大パニックにいつ転落してもおかしくないという、恐ろしい話ばかり。「狭い通路を落ちないようにそっと歩く綱渡り=ナロウ・パス」だと語るエコノミストもいました。落ちないように、と私も祈っていたのです。しかし、当時、だましだまし来たことが現在の危機を生んでいます。落ちりゃ良かったのに、そして、10年かければ復活はできたし、この財政危機もここまでではなかったのに、今はそう思います。)
◎小泉政権が何もできない理由
小泉政権は最初、改革のために破綻リストを作るなど、改革断行のために戦う姿勢を見せました。しかし、一転、党内抵抗勢力に妥協し、竹中プランは骨抜きにされました。戦う姿勢はポーズだった、海外のジャーナリストや政治家はそう見抜きました。以後は、妥協の連続です。党内抵抗勢力の一部は切り捨てに成功しましたが、多くの国民はさほど小泉政権を信用していません(想定の範囲内かは別として、竹中平蔵、猪瀬直樹も取り込まれましたね。いや、松本にはそう見えるということです。それでも、なんとなく分かってはいながらも、小泉政権にすがった国民の期待にこたえられるのかというと、私は悲観的です)。改革を断行すると、過去の妥協は表に出てきます。何を彼が売ったのかということが。
◎ 日本はルーザーズパラダイス
本書は最後に、「日本はルーザーズパラダイス」という見出しを掲げています。
負け組み天国、そのまんまの中身であり、ゾンビ企業が国富に食いつき続け、最後は食うものがなくなって終わり、そんな結末を暗示しているのです。
以上、私が気になっていて確認した点をダイジェストしただけですが、本書の魅力は遠慮がない分、分かったつもりでもわかっていなかった裏の話がきれいにまとまっているということです。一読をお勧めします。
これは、2002年に書かれた本ですが、今でも状況に変化はなく、ただひとつ違うのは、状況がより悪くなっているということ。
また、そもそも、大蔵族議員の首相が道路公団民営化、郵政民営化だけは推進するというのも相当胡散臭いですね。やってほしいのは山々なんですが。
そして、北朝鮮問題ですが、本当に本書に書かれているとおりであれば、拉致被害者とその家族があまりに悲惨です。
私は二代目政治家をあまり信用していないのですが、それは、既存のしがらみの制約が強くて、信義や正義よりそちらを優先しかねないからです。誰も父母や祖父母、義父母などの旧悪を世に晒そうとは思わないでしょう。皆さんにもそう考えることを強くお勧めします。いくらエリート政治家が良く思えても。政治家の世襲の弊害はそこにあるのです。
追記:アルゼンチンの現状からは想像もつかないのですが、大戦後すぐのアルゼンチンは食料の生産力を軸にした世界2位の経済力を誇り、アメリカに対抗しうるという評価でした。最盛期の日本に並みの勢力だったと言うと大げさですが。