マリス・ヤンソンス指揮バイエルン放送交響楽団の来日公演を、ミューザ川崎シンフォニーホールにて。

 

ハイドン:交響曲第100番「軍隊」

R.シュトラウス:アルプス交響曲

 

素晴らしい!実に感動的なアルペンだ。つい先日、ティーレマン指揮シュターツカペレ・ドレスデンによる同じ曲の演奏を聴いたばかりであるが、個人的には今回のバイエルンの演奏の方が感動的であった。

 

心臓にペースメーカーを入れている73歳の巨匠ヤンソンス。彼は名門ロイヤル・コンセルトヘボウの監督を2004年から務めたが、2015年には退任してしまった。一方、バイエルン放送響の首席は2003年から務めて、今期は既に13シーズンに入る。

健康上の問題からコンセルトヘボウをやめたヤンソンスがバイエルン放送響のシェフを続けているのは、バイエルン放送響の本拠地となるコンサートホールを建設するためだということを聞いたことがある。現在、ミュンヘンの彼らの本拠地であるヘラクレスザールは収容人数が少ない。ミュンヘンのもう一つの名門オケ、ミュンヘン・フィルが本拠地とするガスタイクでも彼らは演奏会を行っているが、ここは音響が最悪で有名。私はどちらも行ったことないのであるが。

 

13シーズン目ということもあって、やはりオケと指揮者との阿吽の呼吸がすごい。バイエルン放送響、来日公演で結構緩いところがあったこともあるが、今日の演奏はそういう緩さがなかった。

 

1曲目はヤンソンスが好むハイドンの交響曲から、100番「軍隊」。実にきびきび、はつらつとした音楽の運びが気持ちよい。あまり重厚ではないが、かといって軽すぎない適度な重さを持っている。ティンパニは硬めのマレットで乾いた軽めの音。弦楽器の編成は10—8—6—5—4で通常の配置。

第2楽章の舞台裏、左手で吹かれるトランペット、リハーサルでヤンソンスが何度も細かく指示を出していたところも完璧に決まった。ちなみにこのトランペットのフレーズはマーラー5番の冒頭にちょっと似ている。

第2楽章の打楽器は舞台上の右手で演奏されていたのであるが、第2楽章が終わると彼らは舞台から退場。第4楽章になって客席の左側(1階L1扉)からトルコ軍楽隊として登場し、客席最前列の前を練り歩くというパフォーマンスで、リハーサルのとき練習していたものだ。トライアングル、シンバル、大太鼓と、その先頭には軍旗だか紋章のようなものを持った人がいる。

太鼓の腹にはしっかり”I♥Japan”と書いてあるが、気づいた人は少ないだろうと思う。

 

後半は16型に拡大したアルペン。

ヤンソンスが絶賛するミューザ川崎のクリアなアコースティックで聴くバイエルン放送響の音は​柔らかく、明るく抜けが良い音で、まさに夏の南ドイツの山岳地帯のさわやかな気候そのままの音!

ラモン・オルテガ・ケローの伸びやかなオーボエソロ、カルステン・デュフィンの全くでしゃばることのない、あくまでも自然なホルンソロ。輝かしいが決してうるさくなく、全体の音の溶け合い方が自然な金管セクションは、このオケの特徴であろう。高い音も易々と平然と、そして美しく奏でるトランペットセクションには驚いてしまう。

言うまでもないが、アルプス交響曲は単なる自然描写の作品ではない。特に頂上に到達した感動や自然への賛美、下山時の焦燥感や恐怖感と自然への畏怖と感謝、そういった人間の心理や感情をも描写している音楽だ。ヤンソンスの演奏は、その感情の動きをあくまでも自然に、何の作為もなく描き出す。頂上や下山後のシーンでは自然に胸が熱くなってしまう演奏だった。

 

終演後、ヤンソンスに対するソロ・カーテンコールあり。川崎のホールが珍しくほぼ満席に近い状態だった。

ヤンソンスは最近演奏会のキャンセルがあったり、ベルリン・フィル・デジタルコンサートホールで観たショスタコーヴィチの10番がまるでキレがない演奏だったりしたので、今回の来日公演の演奏がどうなるか心配していたのだが…顔色はすぐれないものの全くの杞憂に終わったようだ。マリス・ヤンソンス健在!