NHK交響楽団第1872回 定期公演 Bプログラム1日目を、サントリーホールにて。

指揮:トゥガン・ソヒエフ

 

プロコフィエフ/組曲「キージェ中尉」作品60

プロコフィエフ/スキタイ組曲「アラとロリー」作品20

プロコフィエフ/交響曲 第7番 嬰ハ短調 作品131「青春」

 

先日のC定期の「イワン雷帝」に続き、ソヒエフによるオール・プロコフィエフ・プログラムである。

私はB定期2日目の会員であるが、振替を当日まで忘れていた。N響B定期の当日振替は補助椅子での鑑賞となる。そのようなわけで、RAブロック最後列の更に後ろの座席となってしまった。しかしそのおかげで、ソヒエフの指揮振りを斜め前からつぶさに観察することができた。

 

現在活躍している指揮者たちのなかで、「こいつはただ者ではない!」と思わず膝を打ってしまう指揮者。私にとって、それはソヒエフとクルレンツィスである(ただし、クルレンツィスはまだ実演を聴いていないので仮置きではあるが)。

ソヒエフは1977年生まれ。現在、トゥールーズ・キャピトル響の首席指揮者、ボリショイ劇場の音楽監督を務め、2015 /2016 シーズンまではベルリン・ドイツ響の音楽監督も務めていたという俊英。フランス語圏、ロシア語圏、そしてドイツ語圏で音楽監督のポストを得ていたということになる。

 

先日のイワン雷帝のときもそうだったが、実に鮮やかな色彩を放つ、しっかりしたフォルムのプロコフィエフであり、この指揮者の圧倒的な実力を見せつけられる演奏であった!

彼の指揮は原則としてタクトを用いない(ベルリン・ドイツ響とのブラームス1番では、冒頭のみタクトを使用していたのだが)。両手の細かい動きで、音楽の表情を細やかに表現し、それを奏者に伝える術が卓越しているのだ。身体の軸がしっかり固定された上での極めてしなやかな動作は、見ていてとても気持ちがいい。

実際に斜め前から見てみると、実は彼の指揮、手の動きだけではなくて、顔の表情、首の振り方、身体の動かし方、全てを動員して音楽を表現しているのである。彼の頭の中には、どのような音楽を作るべきかというすでに明確なヴィジョンがあって、その内容を、全身を通じてオーケストラに放射しているように見える。そして、オーケストラはまるで魔法にかけられたかのように活き活きと反応するのだ。まさに、オーケストラの魔術師!

かのヘルベルト・フォン・カラヤンは、目力だけでオーケストラの出だしをずらすことができたという。小澤征爾もそうだが、やはり指揮の技術が卓越している指揮者には大物が多い。ただ、指揮が上手いだけで必ず素晴らしい音楽家であるとは言えないし、正直棒が下手な指揮者でも素晴らしい音楽家はいるのであるが。

 

「キージェ中尉」、個人的には大変に慣れ親しんだ作品。第1曲と終曲で舞台裏のコルネットを吹いたのは井川明彦氏。第2曲「ロマンス」は、かつてスティングが”Russians”という歌にしたことでも有名だ。ソヒエフはこの曲が持つ諧謔性、明と暗の対比を見事に表現していた。

「スキタイ組曲」、よく聞く名前であるにもかかわらず、全くなじみがない音楽であることに我ながら驚き。実演では、1994年のPMFでマイケル・ティルソン・トーマスの指揮で聴いただけだったのだ。「キージェ中尉」も意外なことに、2007年にテミルカーノフ指揮読響で聴いたことがあるだけだったが。スキタイ組曲はもともとバレエ音楽だったが、ストラヴィンスキー「春の祭典」と内容がかぶるためにオーケストラ曲になったそうだ。

後半演奏された交響曲第7番は晩年の作曲者が過去を振り返って回想するかのような味わいがある。もっと演奏されて然るべき音楽だろう。第2楽章のワルツ、ソヒエフの指揮で聴くとまるでフランス音楽のようだ。

 

終演後のオケの反応を見ても、この指揮者に対して奏者たちが感服していることがよくわかるというものだろう。会場の拍手はまあそこそこではあったのだが。

ソヒエフは来年3月にトゥールーズ・キャピトル交響楽団と来日するが、これは絶対に聴き逃すべきではない!

 

総合評価:★★★★☆

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