米国、会計厳格化の「劇薬」を飲む | おぼっちゃま的投資戦略 タケちゃんの部屋

米国、会計厳格化の「劇薬」を飲む

「会計基準が変われば、それで勝負は決まるんだよ」。1999年夏、霞が関の「大蔵省」庁舎。ある中堅官僚がこうつぶやいた。

 

当時、彼が担当していたのが企業年金の積立不足を財務諸表に反映させる退職給付会計。2001年3月期決算から実際に導入されると巨額の赤字計上が相次ぎ、ついには企業が運営を請け負う公的年金である「代行部分」の国への返上につながった。この結果、株式市場では「代行返上売り」の嵐が吹き荒れ、日経平均株価は03年4月のバブル後最安値(7607円)に向けて急落、平成デフレの底は一段と深くなった。

 

会計基準の変更は時として、一国の経済をまるごと揺るがすほどの「劇薬」となる。信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)問題に苦しむ米国はまさに今、この「劇薬」を飲もうとしている。

 

9日のニューヨーク株式市場。米政府系住宅金融機関である連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)の株価が前日比で23%急落。同業の連邦住宅抵当公社(ファニーメイ)も13%の大幅安となった。ニューヨーク証券取引所上場銘柄の下落率ランキングで、フレディマックは2位、ファニーメイは12位とそろって上位に並び、相場全体が大幅安となる中でも、この2銘柄の下げのきつさが特別目立った。

 

リーマン・ブラザーズが7日付のリポートで、フレディマック、ファニーメイの2社は今後、数百億ドル規模の資本不足に陥る恐れがあると指摘したことが引き続き嫌気されている。この2社は民間が貸し付けた住宅ローンを買い取り、住宅ローン担保証券(RMBS)に仕立て直して転売したり、投資目的で保有したりするのが主な業務。このためサブプライム問題を受けて大幅な業績悪化が続いているが、それが資本不足に陥る恐れの理由ではない。米財務会計基準審議会(FASB)が予定している特別目的会社(SPC)の連結範囲拡大が2社の財務に大きな影響を与えるためだ。

 

米会計基準では一定の基準を満たせばSPCを非連結とすることが認められる。ここを突く形で、米金融機関は貸出債権を簿外のSPCに移して資産を圧縮したり、サブプライム関連の証券化商品での資産運用に利用したりしてきた。だが、サブプライム問題の悪化に伴って、こうした簿外のSPCで多額の損失が発生するケースが多発。FASBは財務の透明性向上が欠かせないと判断し、SPCの連結範囲を拡大する会計基準の改正原案をすでに固めた。来年初めにも実施したい考えだ。

 

フレディマック、ファニーメイの2社も簿外SPCに多額の資産を保有しているため、会計基準が改正されると簿外SPCが連結されて資産が急増、資本不足に陥るとリーマンはみる。この2社だけではない。例えば米銀最大手シティグループは約1兆1000億ドル(3月末)、JPモルガン・チェースも約4000億ドル(昨年末)の資産を簿外SPCで保有しているとみられる。米金融業界全体では約5兆ドル(約530兆円)と日本の国内総生産(GDP)並みの規模で資産が増加するとの試算があり、大幅な資本不足に陥る金融機関が今後続出する可能性がある。

 

あまりの影響の大きさに米金融業界はワシントン詣でを繰り返し、必死のロビー活動で巻き返しをはかっている。ある程度の効果をあげているようで、FASB幹部によると「(SPCの連結範囲拡大について)政治家の意見は割れている」という。証券取引委員会(SEC)など規制当局の後押しはFASBにとって支援材料。だが実現性について質問すると、同幹部は「我々は(今回の会計基準改正が)必要だと信じている」と繰り返すのがやっとだった。

 

SPCの連結範囲拡大議論は土壇場で葬り去られたり、骨抜きになったりするのだろうか。会計業界の見方は違う。

 

「米政府には会計基準を『ツール』として使うという発想がある。米政府は連結範囲を拡大することで米金融業界の整理再編を一気に進め、競争力の抜本的な強化につなげようとしているとの見方が(会計)業界では強まっている」。ある大手会計事務所の幹部社員は「SPCの連結範囲拡大はほぼ確実に実施される」との考えだ。実際、大手金融機関はロビー活動を続けながらも、連結範囲の拡大に備えて簿外SPCの資産内容を洗い出す作業を急ピッチで進めているという。


 簿外SPCの連結は、米金融機関に半ば強制的に資本増強を促し、優勝劣敗を加速させて業界の競争力を底上げする効果がある。一方で、資本不足から破綻する金融機関が相次いだり、貸し渋りで景気のスパイラル的な悪化を招いたりしかねないという重大な「副作用」がある。いずれにせよ簿外SPCの連結議論がサブプライム問題、米経済全体の行方を決定付ける要素として浮上してきたのは間違いない。


              (以上7/11付・日経ベリタスonlineより・赤色は独断で付記)



最近のバーナンキ議長のコメントと絡め、米国株下落の要因を説明する記事として

非常にわかりやすいと思います。