さて、後半です。


松本から特急と長野電鉄を乗り継いで約2時間半、

同じ長野県内でも東京へ出るのと大差ないこの小布施にやってきました。


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株式会社松葉屋本店  長野県上高井郡小布施町


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観光客に寄って貰えるようにお土産店を併設した造りになっています。


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もともとのブランドはこの「本吉乃川」、

そして最近前面に出しているブランドが「北信流(ほくしんりゅう)」です。


初代が中野市で創業したのが江戸中期と言われています。

その後、明治初期にこの小布施の地に移転してから既に200年以上の時が過ぎ、

現当主で14代目になるという、歴史のある蔵です。


今日は風林火山の中村さんのご紹介で、現当主の市川博之さんに案内をしていただきました。



お土産店のすぐ隣が造りの蔵になっていました。


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ここがお米を洗ったり水に浸けたりする場所です。

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半切り桶と呼ばれる道具、道具を洗ったりお米を水に浸けたりするのに使います。



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ボイラー式ではありますが、昔ながらの和釜を使っていました。

この和釜の中にお湯を沸かして上に米を入れた甑を載せて米を蒸すのです。



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和釜の上に設置された排気施設。

依頼して初めに設計した排気装置がまったく追いつかず追加したそうです。


・・・・・と、ここまでが新しく造り直した、いわば「新蔵」になります。

煙突などは昔からのものを使っているので「リフォーム」みたいな感覚です。


そしてその奥に繋がっているのが・・・・・

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この重厚な扉の奥が、昔からの蔵になっています。

明治初期といいますからもう200年以上、貴重な建物です。



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造りの順番とは違いますが、入ってすぐがこの貯蔵タンクになっています。


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蔵の屋根を見上げるとこんな感じです。

かなり高く、やはり歴史を感じずにはいられません。



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そしてその奥に醸造用のタンクが並ぶ一角があります。

なるほど、と思ったのは普通酒までこのサイズのタンクで仕込んでいること。

もちろんやり方にもよりますが、これは小回りが利き丁寧に造ることができるサイズです。


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大吟醸などの高級酒はさらに小さなこのサイズのタンクを使っていました。



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その右奥にあるのがこの麹室。

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印象としてはちょっと低め、腰が痛くなりそうな高さに感じました(笑)


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麹造りには箱を使っていらっしゃいました。



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さらにその奥に位置する酒母室。

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位置関係としてはちょっと縦長というか蒸米から酒母室や麹室が遠い感じ。



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搾りはこのヤブタを使っているようです。



・・・・・と、まぁ、蔵の様子をざっとご紹介しました。

はっきり言って特に変わったところもないごくごく普通の造り酒屋に見えたと思います。



衝撃はこの先でした。



当主の市川博之さんは39歳という若さ。

いろいろなお話を伺いましたが、とにかく「自身の確固たる考え方を持っている」方でした。

その中で特に感銘を受け、共感したことを僕なりの言葉で表すと、



普通に造る酒はみな同じようなもの。

その中で抜きん出るにはその蔵なりの個性がなくてはダメだ。



どうでしょう、市川さん。意図は外していないでしょうか。



その「個性」の体現として市川さんが実践されていることを見て、正直驚愕しました。

まずは醸造蔵の奥にある、冷蔵設備や物置のある建物に入ります。

2℃を指している冷蔵庫から「はい、これ」と飲ませて頂いたのは18BYの生酒。

おお、いい熟成があってなかなか美味しい・・・やはり冷蔵管理の賜物か、なんて思う僕。


そして今度はその横の物置(としか見えない)の奥からなにやらごそごそと取り出してきた瓶。

「はい、これがその常温放置」と言って注いでくれたのが同じ18BYの生酒、しかも封が開いてる(笑)

口にしてみる・・・・・ぬおっ、比較にならないくらい旨い!しかも老ねはなくいい熟成だ。


そしてさらに市川さんは僕を2階に連れて行く。

階段を上がっただけで明らかに温度が違う・・・今日のような天気だと暑いくらい。

夏なんかもう大変ですよ、と笑いながら僕を招いてくれたその先には・・・・・


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やっぱりここも物置にしか見えないのですが・・・・・


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実はこのダンボールの中には各年代の生酒が入っているのでした。(!!!)


そして市川さんは「はい、これがその2階常温放置」と同じ18BY生酒を僕に注ぐ。

これも既に封が切ってある・・・・・普通に考えたら飲めなくなっていてもおかしくない環境。

口にする・・・・・おおおおおっ、明らかに1階の常温放置よりまろみとコクが上で旨い・・・・・!!!


感想を述べると我が意を得たりとニヤッとする市川さん。

封が切ってあった理由が判った・・・・・市川さんはこの実験で自らデータを取っていたのだ。

何のデータかって?



松葉屋の生酒は

   常温放置や開封程度では劣化せずに熟成する

                                                ってデータです。



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蔵に戻ってその確証となる酒たちを飲ませていただきました。


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ここに並ぶほとんどが市川さんの手により実験を試みている生酒の常温熟成酒です。

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特にこの中央の酒、判りますか?この澱と酒の色・・・・・凄すぎます。



市川さんからたくさんの貴重なお話とお酒をいただき、本当に勉強になりました。


市川さんと僕はいわゆる生老ね(なまひね)肯定派です。

生老ねとは生のまま酒を保存すると出てくる熟成感のことで好みが分かれるものです。

鑑定官の偉い先生には否定する方も多いけど一般の呑み手には「これが好き」という人もいます。


しかし市川さんと意見交換&きき酒しているうち、これは大きな間違いがあるのではと気が付きました。

というのはこの酒の中に一本だけ明らかに生老ねしてとても飲めないものがあったのです。

これが生老ねというのは判る、しかし他の良いものと一緒くたにするのは乱暴なのではなかろうか、と。


熟成と老ねの違いについて、そこに明確な線を引くことはとても難しいとされています。

人によって感じ方も違うし「いい」と思えば熟成、「悪い」と思えば老ねとしか言いようがないのです。

ましてや生老ねについてはさらに定義がなくアバウトなのが現状で、

生酒由来の熟成といえば良いものも悪いものもとりあえず生老ねと呼ぶ傾向があるのです。


松葉屋本店の生酒常温熟成には香ばしいカラメル香に、甘く幅の広いコクがあります。

これは本当に驚きでした、目から鱗でした。

これらを並べて四季酒の会で常温と燗で比較呑みなんかしたら間違いなく歓喜の声が上がります。


強い酒です・・・・・本当に強い酒です。

これは断じて生老ねではなく、僕は生熟(なまじゅく)と呼ぶべきではないかと思うのです。



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市川さんは、この蔵の未来を熟成酒に賭けていらっしゃいます。

これから日本酒が伸びていくにはその分野しかないのでは、と考えていらっしゃいます。

そのために自身の酒をサンプリングしながら、いろいろな方策を試みているのです。


しかしそれ一辺倒ではありません。

同い年で今年で杜氏8年目だという杉原逸夫杜氏のモチベーションUPのため

流行の酵母を使った一般受けしやすい大吟醸などで鑑評会を見据えた酒も手がけています。


試飲もさせていただきましたが、無理に香りを出さずに味を乗せたスムースないい大吟醸。

しかしそこに突出した個性は、たしかにないのです。

そうすると個性を担う翼の一端は、やはりこの力強い生酒を使った熟成酒ということになります。


時間もかかります、なにせすぐに売ることができないのですから。

それでも市川さんは楽しそうな笑顔でこう言うのです。



「ま、趣味とか遊びみたいなものですから。」(笑)



すげー変な蔵の変な当主(笑)に惚れてしまった一瞬でした。

5月19日の長野酒メッセで再会できることを今から楽しみにしているのです。


市川さん、忙しい中本当にありがとうございました。

市川さんの想いにすっかり共感してしまった酒バカはこれから松葉屋のお酒を応援していきます。