演奏会評「関西フィルハーモニー管弦楽団 第278回定期演奏会 藤岡幸夫・指揮」 | 作家・土居豊の批評 その他の文章

演奏会評「関西フィルハーモニー管弦楽団 第278回定期演奏会 藤岡幸夫・指揮」

演奏会評「関西フィルハーモニー管弦楽団 第278回定期演奏会 藤岡幸夫・指揮」


関西フィルハーモニー管弦楽団 第278回定期演奏会
藤岡幸夫 指揮
オーギュスタン・デュメイ  ヴァイオリン独奏
ザ・シンフォニーホール
2016年10月14日
【曲目】
吉松隆
夢色モビールⅡ

バルトーク
ヴァイオリン協奏曲第2番

シベリウス
交響曲第2番ニ長調

 

 

 

 

吉松隆の「夢色モビールⅡ」は、夢の中のような、自然に抱かれるような安らぎ、マーラーかブルックナーのアダージョのような弦楽の響きが美しい。

バルトーク「ヴァイオリン協奏曲第2番」は、聖なるものと、通俗との対立、争い、和解を感じる。デュメイのバイオリンのアグレッシブさ、音色の多彩さが印象的だった。

さて、今日の最大の目的は、藤岡幸夫のシベリウス2番シンフォニーを聴くこと。

 

 

シベリウス「交響曲第2番ニ長調」
藤岡幸夫指揮、関西フィルのシベリウス2番、2005年の同コンビのCDと比べて、全く次元の違う、おそるべき演奏だった。
コンサート開演前、藤岡さんのプレトークで、「交響曲第2番はシベリウスが愛する娘を亡くした悲しみを抱えて書かれた交響曲」というお話を聞いてから演奏に接すると、なるほど、よくいわれる愛国的な曲という印象とはずいぶん違って聴こえる。

 

 

※藤岡幸夫ファンページより
「2015/7/25「シベリウス」の話」


http://www.fujioka-sachio.com/fromsachio/fromsachio201507.htm#fromsachio20150725-Sibelius

 

上記より引用《シベリウスは愛娘を失った悲しみと闘っているのだ。その悲しみから逃れるため家族でイタリアに滞在するが、途中で悲しみや自分自身への怒りに耐えられず突然一緒にいた妻子を放り出して単身ローマに行ってしまうほどシベリウスはどうしようもない悲しみのどん底にいた。》

 

 

 

1楽章 アレグレット
田園の慰めを思わせる楽想と、金管のコラールは神の救いを暗示するかのよう。だが、悲痛な思いがゲネラルパウゼに隠されているのを感じる。まるで、心の空白が作曲の筆を折ってしまうように。違う楽想がランダムに現れるのも、中断を繰り返すブルックナーのような作りとなっている。

 

2楽章 アンダンテ マ ルバート
これは、慟哭の音楽だ。繰り返し襲う金管の咆哮は、悲劇に耐え難く抗う心の叫び。そのあとに訪れる弦楽と木管によるオブリガートが、つかの間の慰めを表すかのようだ。しかし後半、ピチカートが刻むリズムは、無慈悲な現実の足音を思わせ、諦めをうながす。締めくくりの、まるで運命のようなピチカートの連打がとどめを刺す。
この楽章は、全体に、まるでワーグナーのジークフリートの葬送行進曲を思わせるところがある。不可避に襲う悲劇と、それに激しく抵抗する人間の苦闘、だが現実は無慈悲に進んでいく。

 

3楽章 ヴィヴァーティッシモ
冒頭からの激しいスケルツォの動きに対して、対比的に奏でられるオーボエの慰めに満ちたメロディーが実に美しい。関西フィルのオーボエの素晴らしい豊かな響きを堪能した。

 

4楽章フィナーレ アレグロ モデラート
金管のコラールは、救いの到来。だが、認めたくない葛藤が再び現れる。コーダにいたるにしたがって、圧倒的な自然?あるいは神?のような輝きに満ちた音が、苦悩から歓喜への転回を表出して締めくくる。

 

この交響曲を改めて聴くと、シベリウスのもつ、ブルックナー的な響きと、ワーグナーのような劇的展開が垣間見える。さらに、表面的には派手なオーケストレーションの底に、信仰への傾斜、神を求める思いが見え隠れする。このことは、第2楽章でキリストのイメージを写したといわれるメロディーを聴けば、誰しも感じるだろう。

 

藤岡幸夫は、全体にインテンポで、ロマンティックにテンポを揺らすのではなく、ディナーミク、アーティキュレーションの振幅を大きくとって、情念の高まりを表した。2005年のCDと比べても、テンポの変化は少なく、その分、構成感が強固に感じられた。特に第4楽章の後半、決然たるテンポ感が、いやがうえにも勝利の輝き、祝祭的な歓喜の感情を盛り立ててやまない。
コーダにいたって、オケ全体が発する音圧が倍加するように感じられ、関西フィルの進化を実感した。

 

これは言っても詮無いことだが、フィナーレの最終音が輝かしく響いたあと、その余韻を数秒だけでも、味わいたい。音が止まるやいなや、いち早く拍手をし、叫び声を上げるのは、やはり興ざめな気分にさせられる。
もっとも、最終音の輝きに我を忘れて、かぶせるように手をたたき叫びたくなるぐらい、この演奏に興奮させられたのも事実だ。藤岡幸夫のシベリウスは、いよいよ深みを増し、進化を遂げている。来年の関西フィル定期では、満を持してシベリウスの5番シンフォニーだ。早く聴きたくて待ち遠しい。

 

 

※シベリウス:交響曲第2番、『フィンランディア』、エルガー:夕べの歌

藤岡幸夫指揮、関西フィル

 

http://www.hmv.co.jp/artist_シベリウス(1865-1957)_000000000021511/item_シベリウス:交響曲第2番、『フィンランディア』、エルガー:夕べの歌%E3%80%80藤岡幸夫&関西フィル_1263546

 

※藤岡幸夫指揮、関西フィルの演奏会評、過去のブログ記事


藤岡幸夫指揮、関西フィルのMeet the Classic Vol.33 フォーレ『レクイエム』を聴く
http://ameblo.jp/takashihara/entry-12194219705.html


第7回阪急ゆめ・まち 親子チャリティコンサートを親子で鑑賞
http://ameblo.jp/takashihara/entry-12172719213.html

 

藤岡幸夫の指揮、北村陽のチェロで、関西フィルハーモニー管弦楽団 大阪市中央公会堂特別演奏会を聴く
http://ameblo.jp/takashihara/entry-12141671709.html

 

指揮者の藤岡幸夫HPで、筆者の書いた2014年の関西フィル第260回定期演奏会のレポートがリンクされています。
http://www.fujioka-sachio.com/report/report20141010.htm

 

 

 

※指揮者の藤岡幸夫HPで、筆者の小説『トリオソナタ』を絶賛してくださいました
http://www.fujioka-sachio.com/album/album.htm

 

 

実は、演奏会後、藤岡さんにツーショットをお願いしたのですが、私のスマホのフラッシュが光らず、怪しい?シルエットの二人組に。

藤岡さん、お急ぎのところ、ありがとうございました。