2016年4月14日〜16日の熊本、大分を中心とした震災について、雑感 | 作家・土居豊の批評 その他の文章

2016年4月14日〜16日の熊本、大分を中心とした震災について、雑感

2016年4月14日~16日の熊本、大分を中心とした震災について、雑感

熊本大分の地震について。今朝(4月19日)になって、なにか風向きが変わった印象がある。たぶん昨日(4月18日)の国会でTPP審議をやってしまったことが大きいのだ。首相が「消費増税は予定通り」と発言したのも影響大。これで事実上、熊本大分は大震災レベルの話ではなくなってしまったということだ。後は、いつの間にかなし崩し的に、地方の災害問題に矮小化されるだろう。
思うに、昨日(4月18日)の国会、野党側は審議拒否すべきだった。夜のNHKニュースで、野党側が審議冒頭に主張した「TPPは後回しにして地震対応優先すべき」の意見は完全カットだった。その代わりに、政府ががんばってるPRが、大きく取り上げられた。ちゃっかりオスプレイ宣伝も、迫力の映像で映し出されていた。
これで、政府は安心してTPP審議を粛々と進めるだろうし、補選の応援もやりやすくなっただろう。
もし、昨日の国会で野党が審議拒否して、地震対応優先のため流会にできていたら、熊本大分の地震が国レベルの大震災である、という印象が、国内にも、世界にも広がっただろう。
だが、そうはならなかった。国会が平常通りTPP審議である以上、九州の地震は、いずれ地方の問題にすり替えられるだろう。
それどころか、下手をすると、新潟中越沖地震の時より矮小化される。新潟中越沖地震では東京電力の柏崎刈谷原発がやられたことで、原発事故としても首都圏に大きく影響したが、今回の場合、もしこの地震の関連で今後、鹿児島の川内原発がどうかなったとしても、首都圏には大きくは影響しない遠さだ。少なくとも、東京電力の原発ではないという点で、首都圏への影響は柏崎刈谷のときよりも小さいだろう。
今後、熊本大分の地震を国がどう扱うか? おそらく村上龍『半島を出よ』に近い形になる。東京は九州を、いざとなったら切り捨てるだろう。東京が九州を見捨てるというシナリオは、すでに村上龍が、小説で精密にシミュレーションしていた。政治的には、東京は新潟や福島の場合よりも、さらに冷酷に九州を切り捨てるだろう。もちろん、日本の経済全体としては、九州をそう簡単に切り捨てることなどできないはずだが。

※『半島を出よ』村上龍
http://www.amazon.co.jp/dp/4344410009/ref=cm_sw_r_tw_dp_Jqyfxb14G5CDR


ところで、熊本大分の地震に対して、政府の災害対応が後手に回っているようにみえるのは、14日の震度7のあとの本震という「想定外」の事態があったせいで、「まさかと思うがこれからまだでかいのが来るかも?」という無意識の怯えが、判断に影響しているのではないだろうか?
熊本大分の地震は、強い余震?の多さが、これまでの震災とは違う異様な印象をもたらしている。14日の震度7の次に、まさかの本震がきたという事実が、「まだこれからでかいのが来るかも?」という怯えを生んでいる。実際、まだこれから大きな地震が来るのかもしれないので、落ち着いて今後の対応を考えにくいのは確かだろう。これは、そうとうに特異な事態だ。
さて、
東日本大震災から5年の節目で、今回の熊本大分の地震が起こったことは、今後、じわじわと日本人の精神に悪い意味で効いてきそうな気がする。
すでに大震災から3年目ぐらいで、震災疲れ、のような無気力感が世間にあったように思う。5年たって、いよいよこれからというときにまた、という心理的な衝撃は想像以上に大きいだろう。
特に、東日本から5年で、東京五輪も目前に迫ってきたのに、安倍政権の経済政策の失敗が明らかになってきて、またデフレに逆戻りしそうな気配が濃厚になっているいま、三たび震災が、というショックは大きいと思う。
これから、熊本大分の地震から日本人が受けた精神的ダメージは、ボディーブローのようにきいてくる気がしてしかたがない。
東日本から5年、ようやく前向きに再出発だという政府の演出も、この地震で一気に吹っ飛んだ印象だ。福島原発事故についてもようやく廃炉に向けて前震できそうな矢先に、この地震で今度は九州の原発への不信感が世間に溢れてしまった。なにもかもボタンの掛け違いが起こっている気がする。
震災疲れ、という点では、むかしの日本人の方が賢かったかもしれない。もちろん、地震を鯰にたとえて茶化す大津絵、鯰絵のことだ。
これは、頻繁な地震の被害に耐え抜く知恵として、地震そのものを戯画化してしゃれのめす、という見事なアイディアを実践していたのではなかろうか。地震を、ナマズというユーモラスな絵に変えてしまって、そのナマズをなんとかなだめすかして生活していく、というイメージは、まさしく庶民のたくましい生活の知恵から自然発生したものではないだろうかと思うのだ。



※参考記事
語るに落ちた。熊本大分の地震は大震災ではない、と決めてしまったわけです。

熊本地震 安倍首相、消費税10%「予定通り」(産経新聞) - Yahoo!ニュース
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160418-00000540-san-pol

※参考資料
できることはすべてやる、というのが安倍首相の発言なら、激甚災害指定もすぐできるはずでは。熊本大分の地震をすぐに激甚災害指定出来ないのはなぜ? 東日本大震災直後、閣議決定で政令で指定できたのに、今回はなぜ? という疑問があります。

「平成二十三年東北地方太平洋沖地震による災害についての激甚災害及び これに対し適用すべき措置の指定に関する政令」平成23年3月12日 内閣府
http://www.bousai.go.jp/taisaku/gekijinhukko/pdf/140328-3kisya.pdf