ハリウッド版「ゴジラ」にもの申す!(ネタバレ満載なのでご注意を) | 作家・土居豊の批評 その他の文章

ハリウッド版「ゴジラ」にもの申す!(ネタバレ満載なのでご注意を)

ハリウッド版「ゴジラ」にもの申す!(ネタバレ満載なのでご注意を)

ゴジラファンならずとも楽しみな映画「GODZILLA ゴジラ」(ハリウッド版)を、ようやく観た。
何度も映画館の大スクリーンで観た予告編が、非常に思わせぶりで、筆者はものすごく期待していた。
その期待は、全く裏切られた。それも最悪の形で。
その理由を、一言でずばり言う。
「この『ゴジラ』には、実はゴジラは必要ない、ただのゲストキャラである」からだ。
どういうことか?
詳しく述べよう。
(以下、完全にネタバレなので、未視聴の方はご注意ください)






















謎の巨大生物を追う科学チームが発見した、怪獣ムートーの卵を、渡辺謙演じる科学者・芹沢は、かつて重大事故を起こした日本の原発の跡地に隠して研究を続けていた。その原発事故は、実は地震によるものではなく、怪獣のせいだった。その真相を探り続ける技術者の父と、その息子の米軍人(この映画の主人公)は、偶然、怪獣ムートーが孵化する現場に居合わせた。
ムートーは、実は太古から生き残ってきた怪獣(恐竜?)で、主食は放射線だという。だから、原発事故の跡地でたっぷりと放射能を吸収し、成長したのだ。
米海軍は、アドバイザー役の芹沢博士を乗せてムートーを追尾する。当初、軍部は怪獣による被害を地震だとごまかしていたが、ムートーがハワイに現れるに至って、世界は怪獣のことをテレビ中継で目の当たりにする。
ところが、怪獣はムートーだけではなく、もう一頭の怪獣が、海中からムートーを追っていたのだ。

とまあ、あらすじを書いていてもきりがない。
本題に入ろう。
まず、この映画では、怪獣が3体登場し、そのうちの2体は、ムートーのつがいである。このムートーは、放射線が餌で、核施設をかたっぱしから襲う。対する人類は、主に米軍が迎え撃つ。途中で、ゴジラがムートーを追って出現し、結果的にゴジラはムートーを2体とも倒すことになる。
だが、この戦いは、実は、怪獣ムートーVS米軍、だけでも成り立つのだ。ゴジラは、人類に害をなす存在ではなく救世主的な存在で、害獣?としてのムートーを退治して、去って行く。
これでは、ゴジラは、登場しなくてもストーリーが成り立つのだ。なにしろ、怪獣ムートー相手に、主人公の青年大尉は、単身いどむようなことになっている。結果的に、ムートーの卵を、主人公が全滅させ、核ミサイルをおとりにした作戦も、もうすこしで成功するはずだった。
ゴジラの助けは、実はいらなかったかもしれないのだ。

ところで、ゴジラの相手となる怪獣ムートーのデザイン、生態が、どうにも、あのエイリアンもどきにみえてしまう。
もっとも、監督自身は、なんと「ガンダム」から思いついたのだそうだが。

※インタビュー引用
http://news.mynavi.jp/news/2014/08/02/118/
「対する怪獣MUTO(ムトー)には、日本のアニメーションが影響しているという。「これまでたくさんの怪獣映画が作られてきましたが、観客に既視感を抱かせないために、角ばった、直線的なものにしようと考えました。それは、『機動戦士ガンダム』を見て思いついた。」


怪獣ムートーは2体出現し、繁殖をしようとしている。そのムートーを追って出現したゴジラのことを、芹沢博士は、「自然のバランスを回復させるため」である、と説明する。
だが、ムートーが繁殖のために現れたなら、その怪獣を、同じ怪獣であるゴジラがなぜ攻撃するのか? 芹沢博士の「自然のバランス」説では、説明に無理がある。怪獣とはいえ、繁殖は自然の摂理ではないのか?
それに、ムートーは太古から生き残ってきたはずだが、普通に繁殖できるなら、なぜ滅びつつあるのか?
ムートーにしても、ゴジラにしても、その正体が恐竜なら、なぜ、生き残っているのか?
この映画のそもそもの欠点は、「怪獣」とはなにか? という根本的な哲学が不明確なことだ。

だが、この映画を観ていて、最大のフラストレーションは、主役であるべきゴジラの、信じがたいほどの弱さ、である。
予告編でもかいま見たように、ゴジラは、映画の中盤まで、もったいぶった登場の仕方をする。そのわりに、登場したあと、ゴジラはどうにも貧弱だ。存在感が薄い。ムートー相手に、ずいぶん苦戦している。
しかも、わざわざ人間を助けているみたいなのは、どうしてもあざとくみえる。
ゴジラは、なぜそこにいるのか?
なぜムートーはアメリカを襲うのか?
怪獣の存在を人々はどう受けとめるのか?
作品の哲学が曖昧すぎるのだ。

この映画のテーマは、家族愛だ。それは、観客にストレートに伝わるだろう。しかし、どう考えても、主人公の妻は、ヒーローであるはずの夫の足をひたすら引っ張るばかりだ。
作品の鍵となるはずの芹沢博士は、ムートーの卵を保護して、蘇らせた張本人なのに、問題の解決に何も寄与できない。傍観者に甘んじ、ゴジラ攻撃にも、何の役にも立ってない。
怪獣と戦う主役は米軍だが、ゴジラに核が効かないことを知りながら、核攻撃しようとする間抜けさだ。

映画としてうまいと思ったのは、大統領とか、お偉いさんを出さなかったことだ。現場の物語で首尾一貫していることは、好感がもてる。
だが、なぜ日本のフクシマ事故や、津波被害を模したのか?
物語の前半は、日本での災害がメインとなっているが、後半の怪獣VS米軍の物語と、整合性があまりないのだ。つまり、日本の原発事故を描く必然性がない、と感じる。
もっとも、監督曰く、そもそもこの映画の出発点は、被災した日本の姿だったともいう。

※インタビュー引用
http://news.mynavi.jp/news/2014/08/02/118/
「今作のアイデアには、一人の日本人写真家の作品が深く関わっているという。エドワーズ監督は、数年前、ゴジラの監督をすることが決まって来日した際、日本側のプロデューサーから1冊の写真集をプレゼントされた。それは、岩手県陸前高田市出身の写真家・畠山直哉さんの写真展のカタログだった。「ちょうどそのとき、今回のアイデアを出す締切り間近でした。その写真集のページをめくっていたら、倒れた建物の写真が目に飛び込んできたのです」。そのとき、エドワーズ監督の頭に、倒れ込むビルの間からすーっと姿を現すゴジラの姿が浮かんだという。」


それにしても、自分でも不思議なのだが、映画の中で、リアルに福島原発事故を再現した映像をみせられたことに、だんだん腹が立ってきた。なぜ、原発事故と津波ありき、の話にしたのか。あの設定がなくても、今回のゴジラは成り立つではないか。怪獣のエネルギー源の原発や核兵器は世界中にあるし、津波被害も、わざわざみせる必要はない。事実、ビルの破壊や街の壊滅は、巧みにぼやかされて描かれる。
日本の不幸な事故被害をハリウッド映画のネタにされたようで、我ながら奇妙なほど、腹立たしい。
その一方、あのリアルな原発事故描写を、娯楽映画として先にアメリカにやられたのは、残念だとも思う。本当なら、日本の映画で、先にあれをやれたらよかった、とつくづく思う。もし日本映画で、真正面から怪獣映画で原発事故を描くなら、それは完全に当事者性があり、初代「ゴジラ」のような、作品としての必然性があっただろう。

それはともかく、ゴジラ、怪獣とは、アメリカ人にとって何なのか? ムートーにしても、ゴジラにしても、つまりは恐竜? ならば、かつてのエメリッヒ監督版「ゴジラ」の方が、いっそ開き直っていていいと思う。
また、怪獣映画、としては、最近大ヒットした「パシフィック・リム」の方が潔いだろう。あれは、本当に、よくもわるくも単なる怪獣映画だった。
このハリウッド版「GODZILLA ゴジラ」は、最悪なことに、ゴジラだけが作品の中で浮いてしまっている。へたな借り物にみえるのだ。
ゴジラはなぜ生きているのか? 滅びたはずの恐竜の中で、なぜムートーだけが蘇ったのか? そもそも、恐竜が放射能からエネルギーを得ていた、という説は実際に、あるのか?
人類を害する巨大生物を、守護神としての怪獣が倒す、というモチーフは、平成版「ガメラ」と共通する。もし、ガメラからアイディアを得たとしたら、あまりに安易なパクリだと思える。
あと、気になるのが、いくらなんでも主人公が活躍しすぎ、だということ。一介の大尉さんなのに、なぜあんなに無敵なのか?
それに、最後、なぜ核ミサイルを爆発させたのだろう? 主人公の本来の職能(爆発物処理)からすれば、核爆弾を見事、解除した方が、ずっとよかったはずだ。
それに、映画として家族愛にテーマをしぼったのはよかったのだが、軍人である主人公が、家族のために軍紀違反?するのはいかがなものか?

つくづく、この映画には、実はゴジラは必要ない。ゴジラを大切にしすぎて、ゴジラがお客さんになっている。物語は、ゴジラがなくても、ムートーを人間が倒す話で成り立つ。なぜなら、人間に害をなすのはムートーであり、ゴジラが人類を助けてくれる必然性がない。本来、ゴジラは悪役であることを忘れて、ガメラ的に扱ったから、ゴジラがゴジラでなくなった、といえよう。
監督さん、スタッフさんたちは、日本のゴジラをリスペクトしたのかもしれない。しかし、それはリスペクトのようで、実は、日本人は見くびられたのではないか?「こう引用したら、日本のファンは喜ぶだろう」と。
だが、リスペクトと引用が、いい映画につながるとは限らない。怪獣映画としては、「パシフィック・リム」や、「クローバーフィールド」の方が、突き抜けていたといえる。
この新作「GODZILLA ゴジラ」を観た後、無性に、「クローバーフィールド」をもう一度観たくなった。平成ガメラシリーズも。
もっとも、「クローバーフィールド」も、平成ガメラシリーズも、世界的大ヒットは無理だろう。これは、いずれにしても、ないものねだり、ということなのだ。


※ハリウッド版GODZILLAゴジラHP
http://www.godzilla-movie.jp

※エメリッヒ監督版ゴジラ
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※パシフィック・リム
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※クローバーフィールド
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※平成版ガメラ3部作
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