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七海ひろき、軍師竹中半兵衛を熱演、星組バウ公演「燃ゆる風」開幕

 

星組の人気男役スター、七海ひろき単独初主演によるバウ・戦国ロマン「燃ゆる風」―軍師・竹中半兵衛―(鈴木圭作、演出)が12日から宝塚バウホールで開幕した。今回はこの模様をお伝えしよう。

 

甘いマスクで宙組時代から注目を浴び、星組に組替えしてからは演技派として着実に地歩を固めてきた七海の入団14年目にして待望の単独初主演作は、類まれな智略を持ち秀吉を陰で支え、若くして病で亡くなった戦国武将、竹中半兵衛の半生を描いた時代ロマン。「戦国BASARA」以来久々の登板となった鈴木氏が戦乱の世を背景に、単なるアクション時代劇に終わらせず七海にぴったりな人情味豊かなヒューマンドラマに仕立て上げた。

 

幕開きは、尾張(現愛知県)の城で織田信長(麻央侑希)が思わしくない戦況にいら立っている場面から始まる。登場から麻央が直情的な信長の雰囲気をよく出していて一気に戦国の世にタイムスリップする。信長は、美濃(現岐阜県)の稲葉城攻略に手を焼いていたのだ。が、そんな信長のもとに稲葉城主、斎藤龍興の家臣が謀反を起こし、城を乗っ取ったという知らせが入る。その男、竹中半兵衛(七海)に興味をもった信長は、さっそく木下藤吉郎(悠真倫)を竹中のもとに向かわせる。ここまでが序幕。場面変わって真っ赤な衣装を着た戦火のコロスたちの中央から甲冑姿の七海がかっこよくさっそうと登場。主題歌を歌うと出演者勢ぞろいしての華やかなプロローグとなる。

 

織田方についてくれと頼む藤吉郎の誘いをかたくなに拒んでいた半兵衛だったが「民百姓が平和に暮らせる世を作ることこそ武士の務め」という藤吉郎の言葉に、半兵衛は藤吉郎の下で働くことを条件に織田方につく決意を固め、さっそくさまざまな攻略の知恵を進言する。信長や藤吉郎といった個性のきつい人物のなかで、時代の先を読むことができる聡明な半兵衛を七海が、巧まずして自然体で演じ、ストーリーを進めていく。カリスマ性たっぷりの麻央の信長、絶妙な巧さの悠真の藤吉郎(秀吉)の個性があまりにも際立ち、時にはこの二人の話かと思わせる部分もあるが、前半に半兵衛を慕う部下、三郎太(天華えま)との戦場での涙の別れ、後半には盟友、黒田官兵衛(天寿光希)とその長男、松寿(天彩峰里)との心温まるエピソードをからませ、「命の使い道」をテーマに半兵衛の人間味をたっぷり描き、感動的なドラマを展開させる。

 

半兵衛は、志半ばで病に倒れ、戦場でなくなってしまうのだが、その遺志を継いだ妻のいね(真彩希帆)が信長の妻、濃姫(音波みのり)に進言するくだりも、濃姫といねの関係をドラマチックに浮かび上がらせるなど次々に泣かせ場を用意して、最後まで客席を涙の洪水で満たした。

 

七海は、歌や台詞のトーンがやや高すぎて武将というには軽い感じがするが、立ち姿は凛々しく、甲冑もよく似合ってなかなかかっこよかった。知略にたけ、先読みができるというと普通は寄り付きがたいイメージがつきまとうが、七海半兵衛は、誰からも好かれるタイプという造形で終始さわやか。信長や秀吉に一目置かれていた独特の雰囲気を巧みにかもしだしていた。

 

相手役のいねを演じた真彩はこれが星組最後の公演。日本物の所作がきちんとできているほか、歌唱が抜きんでてうまくて、安心して見ていられた。前半は半兵衛の影に隠れてあまり出番がなかったのだが、半兵衛が亡くなってから濃姫との対面シーンで本領を発揮。これからの新天地での活躍が大いに楽しみだ。

 

藤吉郎(秀吉)役の悠真は、さすが演技派としかいいようのない見事な秀吉。天真爛漫で人が良く、それでいて何か大きなものを予感させる雰囲気を鮮やかに体現、早くも今年の助演男役賞最右翼的存在になったといって過言ではない。

 

信長役の麻央も、すべての武将をひきつけ、震え上がらせるカリスマ性を、その恵まれた長身と押し出しで巧みに表現。このドラマの要ともいうべき信長をそのパワーと迫力でみせつけた。つい先ごろ龍真咲の信長を見たばかりだが遜色ないできばえ。なかでも悠真秀吉とのからみでの腹芸がなかなか、役だけでなくスターとしてのスケール感さえ感じさせた。

 

信長をめぐる武将たちは黒田官兵衛が天寿光希、丹羽長秀が大輝真琴、柴田勝家が輝咲玲央、織田信忠が紫藤りゅう、明智光秀が音咲いつき、荒木村重が桃堂純といった面々。

役としてはやはり天寿が演じた黒田がいろんな意味でドラマに絡む重要な役。実力派の天寿が役どころをきっちりとこなして印象的だった。石山本願寺との交渉に失敗、信長の不興を買う荒木に扮した桃堂も無念さがにじみでた好演。

 

儲け役は天華が演じた、半兵衛を慕って一緒に藤吉郎の部下になる三郎太役。少年時代からのエピソードもあり、半兵衛の身代わりとなって戦場の露となるくだりは前半の大きな見せ場。天華は台詞の口跡がよく、青年のピュアな心情をよく出した。本来は娘役だが黒田官兵衛の長男、松寿を演じた天彩峰里の純真な演技も心に残った。

 

 

女性陣は秀吉の妻、ねねが万里柚美。信長の正室、濃姫に音波。官兵衛の正室、光に紫月音寧。それぞれ見せ場があって好演だが、後半に見せ場のある濃姫の音波の品格のある凛とした演技がやはり最も印象が強かった。

 

吉田優子作曲による主題歌が単純なメロディーだが耳に心地よく、何度も繰り返されるので、帰り道にはすっかり覚えて口ずさめるほど。最近こういう主題歌がなかったので逆に新鮮だった。七海半兵衛の凛々しさはもちろん悠真秀吉の絶妙の演技とともに記憶される公演となりそうだ。

 

©宝塚歌劇支局プラス1月14日記 薮下哲司