©宝塚歌劇団(新人公演パンフレットより)



優波慧、綺城ひか理、2人でビルに挑戦、花組公演「ME AND MY GIRL」贅沢な新人公演

花組公演、ミュージカル「ME AND MY GIRL」(小原弘稔脚色、三木章雄脚色、演出)の新人公演(原田諒担当)が17日、宝塚大劇場で上演された。今回はこの模様を報告しよう。

「ミーマイ」新人公演にはさまざまな伝説がある。剣幸がビルを演じた1987年月組初演の新人公演では涼風真世がビルを演じ、続演時には涼風がビルを、剣がジャッキーを演じた役替わり公演があり、その新人公演は当時研1だった天海祐希が抜擢され大きな話題に。その天海が8年後、本公演で主演した1995年時は一幕が水夏希、二幕を成瀬こうきがダブルキャストでビルを、そして瀬奈じゅんが主演した2008年版の新人公演は、現在の公演で主演している明日海りおがビルを演じている。それにしても天海の新人公演のビルは衝撃的で、まさに一夜にして「スター誕生」の伝説の公演で、現在の新人公演人気は、ここから始まったといっても過言ではない。

今回は2008年版に準じた新人公演で、ビル(明日海)を一幕が優波慧(研7)、二幕が綺城ひか理(研6)が分けて演じるダブルキャスト方式がとられた。あとサリー(花乃まりあ)が、城妃美伶(研6)と音くり寿(研3)、ジョン卿(芹香斗亜/瀬戸かずや)が、亜蓮冬馬(研4)と飛龍つかさ(研5)、マリア公爵夫人(桜咲彩花/仙名彩世)を春妃うらら(研6)と乙羽映見(研7)が一幕と二幕を交代で演じ、一気にツーパターンを見てもらおうという公演で、演じるほうは大変だっただろうが、それぞれのコンビが切磋琢磨、持ち味を発揮して、このうえない贅沢な公演となった。

公演自体は、フィナーレ抜きで2時間15分程度ある芝居部分を細かくカットして、休憩なしで1時間50分に縮めた新人公演バージョン。ビルが両親は「くたばった」と説明する場面を「死んじまった」と軽くひとことですませたりする細かいカットから、二幕は冒頭のダンスシーンをカットして図書館の場面からスタートするなどの大幅なカットまでさまざま。それでも主要なナンバーはほぼそのままあって、ずいぶんテンポのいい舞台だった。

一幕のビルに扮した優波は、このところ新人公演では二番手の役が続き、満を持しての主役登板。二枚目で、押し出しがあって、台詞回しや雰囲気が初演の剣になんとなく似ていて、なんとも懐かしかった。登場シーンの下町育ちのがらっぱちな感じもよくでており、歌もタップも安定感があった。ただ、この役は歌やダンスだけでなくオールマイティーな実力が必要とされる難役中の難役。歌いながら話しながらの帽子さばきなどの細かい芝居も要求され、これが重要なファクターとなっているのだが、優波はこの辺が実におおざっぱだった。この日の観客は非常に温かく、失敗しては笑い、うまくいくと拍手していたが、ビルとしては、うまくいって当たり前なので、下手にやるよりやらない方がすっきりすると思う。

その点、二幕でビルを演じた綺城は、図書館のマントさばきやランべスの街角でのリンゴさばきが何とも堂に入っていて、器用さがにじみでた上、クリアな台詞と歌声、そして幻想シーンのダンスに情感がこもっていて、なかなか見事なビルだった。音楽学校の文化祭で雪組の永久輝せあとともに演劇の主役の皇太子を演じたが、入団してからはこれといった役になかなか巡り合えず、一昨年のエリザベートではエーヤンのソロ歌唱の上手さで目を引き、昨年正月のドラマシティ公演「風の次郎吉」の医者役を好演、芝居心があるなあとは思っていたのだが、今回の堂々たる主役ぶりにはびっくりだった。ラストの思いのたけをぶちまける「このヤロー!いままでどこにいたんだ!」という台詞をそのまま今回の綺城に送りたい。すっきりした容姿と長身で舞台姿も映え、ワキよりセンターがよく似合う。残り1年半の新公期間で再び主演を見せて欲しいし、これを機会に男役としてのさらなるかっこいい見せ方を体得してほしい。

サリーの城妃と音は「アーネスト・イン・ラブ」でもセシリー役をダブルで分け合った二人だが、一幕の城妃は、さすがに場馴れしていて、安心して見ていられた。パブでのソロも情感がこもり、庶民的な雰囲気もよくでていて、いいサリーだった。しかし、二幕でサリーを引き継いだ音が、城妃とは違った意味でまた素晴らしいサリーだった。「ランべス・ウォーク」が終わったあと、休憩なしで展開する関係上、ここで音の銀橋ソロから始まるのだが、これがたった一人で下手から登場し、歌いながら銀橋を渡り、上手にはけるのだ。2550人余りの耳目全てを100期生が一人で引き受けたこと自体も驚きだが、可憐な雰囲気と下町娘らしい勝ち気なところを、絶妙のメリハリをつけて歌った「顎で受けなさい」がほぼ完璧。歌の人であることを一気に印象付けたのは立派だった。幻想シーンの赤いドレスのダンスも綺城との息がぴったり。ラストの変身も見違えるような品格を漂わせてこのうえなく美しかった。芝居心もあり末恐ろしい娘役だ。

ジョン卿は一幕が亜蓮、二幕が飛龍。大人の雰囲気をたたえた英国紳士役で、新人公演では、この役が一番の難役かもしれない。長身で彫りの深い顔立ちの亜蓮は、一人だけ本物のジェントルマンが混じっているような風貌のうえ、しっかりと落ち着いた台詞で好演、引き継いだ飛龍は、ランべスの街角とマリアへのプロポーズの場面しかないのだが、亜蓮のジョン卿を自然に引き継ぎ、違和感がなかったのがよかった。

ジャッキー(柚香光/鳳月杏)は帆純まひろ(研4)でジェラルド(芹香斗亜/水美舞斗)は聖乃あすか(研3)という配役。帆純は「新源氏物語」でも柚香が演じた役に入ったが、大柄で雰囲気が柚香にそっくり。華やかなジャッキーだった。ただ歌唱はまだまだ、冒頭などのソロ歌唱が不安定だった。ジェラルドの聖乃は、若々しくすっきりした青年ぶりが役にぴったりだった。東京公演では帆純と聖乃が役を入れ替わるという。いずれにしてもこの二人にはこれからも注目したい。ちなみにビル、サリー、ジョン卿、マリア侯爵夫人も東京公演は一幕と二幕が逆になる。

マリア公爵夫人は一幕が春妃、二幕が乙羽。色合いは多少違うがいずれも甲乙つけがたい好演。一幕の春妃はビルの教育シーンのところで独自の工夫を見せ、二幕の乙羽は身長もあり堂々とした品格が映えた。ソロが素晴らしく、ずいぶん得をした。


あと弁護士パーチェスター(鳳真由/柚香)は矢吹世奈(研6)、ヘザーセット(天真みちる)は澄月菜音(研5)。矢吹は自然なおかしみで絶妙のパーチェスターを演じ、澄月は本役の天真を手本にした、抑えた演技で見せた。あと娘役ではサリーの下宿屋の女将アナスタシア(芽吹幸奈)を演じた若草萌香(研4)がワンポイントながらいい味を出していた。彼女は新源氏物語の新公でも王命婦(芽吹幸奈)を演じ、歌の上手さを印象付けていたが、芝居心もなかなかのものを持っていると言うことだろう。

途中で主役が入れ替わる新人公演は「ミーマイ」以外にも「ウエストサイド物語」など一本立ての大作の時に時々行われるが、今回のように多くの役が入れ替わるのは珍しく、演じるほうも見るほうも大変だったが、役が少ないこういうミュージカルの場合は一人でも多くの生徒の可能性を探るという新人公演には合っているので、おおいに歓迎したい。それにしても全員が大健闘で、2本分みたような非常にぜいたくな新人公演だった。主要キャストが入れ替わる東京公演も、是非観てみたいものだ。

©宝塚歌劇支局プラス5月18日記 薮下哲司



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