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朝夏まなと、クールなトート!宙組公演「エリザベート」開幕

宝塚初演から20周年という記念すべき年に、朝夏まなとが黄泉の帝王トートに挑戦した宙組公演、ミュージカル「エリザベート」(小池修一郎潤色、演出、小柳奈穂子演出)が、22日から宝塚大劇場で開幕した。今回はこの公演の模様をお伝えしよう。

1996年、一路真輝のサヨナラ公演として初演されて以来、今回で9回目の上演となる「エリザベート」いまや「ベルばら」以上の宝塚の看板作品となった感がある。今回の宙組公演は初日が通算900回目となり、初演以来20周年という話題もあって、大劇場は連日超満員、立ち見も売り切れという熱気で大いに盛り上がっている。

ただ「ベルばら」のように毎回どこか違うストーリーというわけにはいかず、多少演出が変わったところがあっても、基本的に流れは同じで、曲も歌詞も同じなので、何度も見ている通のファンは、出入りのきっかけや台詞、歌詞まで、熟知しているので、これはもう演じるほうにとってはやりにくいことこの上ない公演でもある。特に今回は20周年記念公演であり、前回の花組公演との間隔があまり空いてないので、よほどの覚悟が必要な公演でもある。

前置きが長くなったが、そんななかで始まったこの宙組公演、初演20周年とあって、流れは変わらないが、ウィーンの原点を見直すとともに、宝塚版のよさをさらに進化させようと、トートのビジュアル面はじめこれまでとはやや異なったコンセプトで作られており、長年、宝塚の「エリザベート」を見慣れた眼にはどことなく違和感があった。ただ「エリザベート」という作品の力が、ほかの作品に比べて抜きんでていることには変わりなく、出演者の技量のレベルも高く、それぞれが意欲的に取り組んでおり、初見の観客は十二分に満足できる。これがこれからの宝塚の「エリザベート」だという演出家の提示を真摯に受け止めたい。あとは見る者の好みの問題だろう。

黒のロングストレートヘアーをなびかせて登場したトートの朝夏は、クールでいながら内面はホット、ビジュアルはロックシンガーを思わせ、いかにも現代的なつくり。歌唱ものびやかで一点の曇りもない。ただ、やや明るめのメークと身体にはりつくようなレザーの衣装が妙に生々しく、下界に降臨した人間トートといった雰囲気。ウィーンオリジナルのトートの原点を見直した結果だというが、それとは違ったトートを作り上げたのが宝塚のトートではなかったか。これまでの妖しさを充満させた宝塚の黄泉の帝王という観点を一新したトート像は、賛否の分かれるところだろう。Newトート、計算かもしれないがなんだかすごくあっさりとした印象だった。

エリザベートの実咲凜音。「私だけに」はじめ「私が踊る時」など歌唱は申し分なく、登場シーンや見合いの場面などの少女時代は、自由ハツラツとした感じをよく伝えていた。しかし、一幕ラスト、自我に目覚めたエリザベート一番の見せ場でのインパクトが弱い。小柄なので損をしているのかもしれないが白い豪華なドレスを着ているのに凛とした大きな存在感が見えてこないのだ。現在の宝塚各組の娘役トップスターのなかで「エリザベート」を演じるのに名実ともに一番ふさわしいのが実咲であることは誰もが認めるところだが、東宝版での花總まりの圧倒的な存在感をみせられたあとでは分が悪いとしかいいようがない。特に後半での深みがほしい。ただトートと天上に向かうラストのすがすがしい表情は素晴らしかった。

一方、フランツ・ヨーゼフを演じた真風涼帆が、予想以上の出来で感心した。皇帝の品位もあり、青年時代の凛々しい風貌から、老境にさしかかってひげを蓄えてからの貫録など、皇帝の半生を見事に描き出した。ゆっくりと歌詞をかみしめながら歌う歌も、フランツのエリザベートに対する誠実さをよく表していた。真風には暗殺者ルキーニの方が似合うのでは、と思っていたのだが、このフランツは、男役真風としては大きなジャンプになったと思う。

そのルキーニは愛月ひかる。新人公演を卒業後、やや停滞していた感はあったが、「トップハット」の弾んだ演技以来、確実に地歩を固め、出世役のルキーニ役を射止めた。なにしろ「エリザベート」の要となる役で、ルキーニが作品の成否のカギを握るといっていい大役だ。愛月は、これを予想通りの手堅さでまとめた。「キッチュ」や、そこここでやや大人しく控えめな気はしたが、日にちが立って、もう少しこなれてくれば大化けする可能性を秘めたルキーニだった。

トリプルキャストのルドルフのトップを飾ったのは桜木みなと。期待のフェアリータイプだけあって、この皇太子役はまさにドンピシャ。朝夏との「闇が広がる」は、ダンスのポーズも美しく決まってまさに眼福だった。あとの2人、この日は蒼羽りくが革命家のシュテファン、澄輝さやとはエルマーで、どちらも軍服がよく似合った。

皇太后ゾフィーは宙組の誇る実力派、純矢ちとせ。申し分のない配役で大いに期待したのだが、ゾフィーとしてはよくできているが、一瞬、誰かわからなかったほど純矢としての存在感が薄かったのにはびっくり。あの剣幸や杜けあきでさえも東宝版のゾフィーで苦戦したぐらいだから容易な役ではなく、自分なりの作り込みの難しい役なのかも知れないが、純矢自身のよさが出ていないように思った。役のプレッシャーを跳ね返して長丁場を乗り切ってほしい。

女役ではエリザベートが精神病院を訪問するくだりで出てくるヴィンディッシュ嬢を演じた星吹彩翔の渾身のワンポイントと、マダム・ヴォルフ役の伶美うららの美貌が際だった。
誰よりもマダムが一番美しい娼館というのもおかしい。マデレーネは結乃かなり、脚線美が見事。ルドルフの少年時代は新人公演でエリザべートを演じる星風まどかが初々しく好演した。リヒテンシュタインの彩花まりも忘れてはいけない。このあたりのワキのメンバーがそれぞれになかなかで二幕が楽しめる。

フィナーレは宙組カラーの紫をメーンにしたショーで、真風の「愛と死の輪舞」のソロから始まってラインダンス、そして朝夏が娘役メンバーを従えての「最後のダンス」。朝夏はここの歌が本来のトートのねっとりとした妖しさをたたえて一番よかった。続いて「闇が広がる」をバックにした男役群舞から実咲とのデュエットへと展開していく。パレードのエトワールは瀬音リサが担当した。

©宝塚歌劇支局プラス7月26日記 薮下哲司


○…宝塚のマエストロ、薮下哲司と宝塚歌劇を楽しむ「星組トップコンビ・北翔海莉、妃海風サヨナラ公演特別鑑賞会」(毎日新聞大阪開発主催)が9月27日(火)宝塚大劇場で開催されます。午後1時半からエスプリホールでの昼食会のあと、薮下が観劇のツボを伝授、午後3時の回の星組公演「桜華に舞え」「ロマンス」をS席で観劇します。参加費は13500円(消費税込み)。先着30名様限定(定員になり次第締め切ります)問い合わせは毎日大阪開発☎06(6346)8784まで。


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