龍真咲を中心にした月組選抜メンバーに専科の轟悠を迎えての宝塚グランドロマン「風と共に去りぬ」(植田紳爾脚本、演出、谷正純演出)が11日、大阪・梅田芸術劇場メインホールで開幕した。今回はこの模様を中心に報告しよう。


 1977年にポスト「ベルばら」として上演されて大ヒット、宝塚歌劇史上2番目の動員記録を持つ作品で、その後何度も繰り返し上演されていたが、著作権の関係で2004年の宙組全国ツアーから久しく上演が途絶えていた。しかし、昨年秋に凰稀かなめを中心にした宙組で19年ぶりに大劇場バージョンとして上演が実現、勢いに乗って100周年のトップを飾って再びお目見えとなった。宙組版は1994年、天海祐希が主演した月組公演をもとにしたレット・バトラー編だったが、今回は2002年に東京日生劇場で上演されたバージョンをもとにした総集編で、宝塚的にはバトラー編とスカーレット編をミックス、マーガレット・ミッチェル原作の冒頭から最後までをダイジェスト的にまとめている。しかし、これが12年ぶり4度目の挑戦となった轟の満を持した円熟したレット・バトラーと轟の胸を借りて自由に演じることのできた龍の奔放な演技ととともに、実に充実した舞台となった。


 まず龍の開演アナウンスにびっくり。いつもの低い男役の声ではなくスカーレットになり切ったかのようなかわいい女役の声、おもわずニヤリとさせられる。幕が開くと華やかなガーデンパーティーの場面。中央には真っ白なドレスに緑のリボンをつけた龍スカーレットが、チャールズ(紫門ゆりや)やフランク(煌月爽矢)ら青年たちにかこまれて歌っている。龍スカーレットはこぼれんばかりの笑顔で咲き乱れる花も圧倒するほどの華やかさ。第一声から高く澄み切った女役の声になっていて、鮮やかな存在感。歴代多くのスカーレットに比べて、大げさではなく一、二を争う素晴らしさだ。


 パーティーで妹のスエレン(花陽みら)からかねて思いを寄せているアシュレー(沙央くらま)がメラニー(愛希れいか)と婚約すると聞き、屋敷内にいるアシュレーを探しに行く。一方、屋敷内の広間ではレット(轟)の暴言が出席者の反感を買い大騒ぎになっている。ここで轟レットが中央舞台に華々しく登場するのだが、その音楽たるや誰が出てくるのかとおもう程の仰々しさ。その大げささに思わず笑ってしまうが、これが植田流宝塚歌舞伎の醍醐味ともいえる。

 屋敷内の図書室でアシュレーを探し当てたスカーレットは体当たりでプロポーズ、見事に振られてしまうがことの一部始終をソファーで寝ていたレットに聞かれてしまう。レットとスカーレットの運命的な出会いの場面である。バトラー編ではカットされていたこの場面が復活したことで、2人の感情の流れが非常に自然なり、やはりこの作品はこの場面がないと成立しないのだということがよくわかる。


 1年後のアトランタ駅での再会の場面まで約20分。戦前の南部の美しい自然が活写され後半への華やかな導入部分ともなっている。あと1幕の終わりまではほぼバトラー編と同じだが、轟レットと龍スカーレットの会話をはじめ、ちょっとした間合いなどがずいぶんテンポよく早口で進み、全体的に非常に弾んだ感じ。轟独特の太い低音の台詞がレットにぴったりなこともあるが、さすが4度目だけあって、何度も聞いているはずの台詞が轟にかかると全く違う新しい台詞に聞こえる。身体になじんでいる感じさえする。龍スカーレットは映画のビビアン・リーを徹底的に研究したとあって、自分勝手でわがままだがどこか憎めないひたむきさをよく体現している。なにより轟が相手とあって思い切りぶつかっていける強みもあるようだ。

 後半にもバトラー編にはない、スカーレットがドレスを作るためにカーテンをはがす場面や、監獄にいるレットに金の無心をしに行く場面、さらにフランクと結婚したスカーレットが製材所からの帰りに森で凌辱され、フランクたちがKKK団となって復讐に行くくだりが付け加えられている。バトラー編ではフランクと結婚したことが省略されており、アシュレーがなぜフランクの店で働いているのかが説明がつかなかったのだが、これですっきりする。あとはレットとスカーレットの娘が落馬して死ぬ場面があれば完璧なのだが、これは時間の関係か今回もなかった。とはいえストーリー的にはほぼ網羅されており、轟、龍の好演もあって見応え十分だった。

 なかでも監獄の場面の二人の掛け合いが面白かった。轟レットが余裕の演技で龍スカーレットとのすれ違う思いをユーモアたっぷりに表現、龍スカーレットを自分の掌で自由に操っている感じが、レットとスカーレットそのまま二重写しになり、なかなかの名場面となったと思う。これがあるから、このあとのくるみ割りの場面や、スカーレット階段落ちのあとのメラニーに対するレットの告白、さらにはラストシーンがぐっと生きてきた。

 ラストはバトラー編と同じく屋敷が回り舞台で反転してバトラーが「さよならは夕映えの中で」をうたいながら去っていくところで終わるが、フィナーレは愛希と沙央らが主題歌「君はマグノリアの花のごとく」を歌い継ぎながらパレードが始まり、最後に龍が純白のドレス姿で登場、スカーレット編の主題歌2曲を途中で真紅の衣装にチェンジして披露。いったん全員がはけたあと上手から轟レットがせり上がりで登場、レットとスカーレットのその後をおもわせるようなデュエットが始まる。もちろん新曲で歌詞の最後が「明日は明日の風が吹く」。重厚なドラマの後にほっとするような明るいエンディングだった。

 2人以外では沙央アシュレーが、口跡のいいセリフで丁寧に演じて好感がもてた。とくにラストシーンのメラニーが死んで茫然自失するくだりがはかなげでよかった。ただし登場シーンの二枚目としての押し出しには一工夫がほしい。

 メラニーの愛希は宙組版の実咲凛音同様清楚で控えめな演技でいかにもメラニーだった。

 スカーレットⅡは凪七瑠海。気持ちがはやるスカーレットを逆に諌める感じだったが、スカーレットの影の声にふさわしい存在だった。小顔できゃしゃだが演技には芯がある、凪七の良い部分がよく出ていた。


 ミード博士の星条海斗は、前回の「メリーウィドー」に続く老け役だが、前回を引きずっているようなところがあり、やや元気がよすぎる感なきにしもあらず。
 レットの愛人ベル・ワットリングは光月るう。控えめだがきっちりした演技で、悪目立ちせず彼女の人柄を的確に表現した。これならレットも好きになるだろうと納得がいった。マミーの汝鳥伶は引き続きさすがの名演。

 

 いずれにしても100周年トップを飾るにふさわしい出来栄えだった。


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宝塚歌劇支局プラス 2014年1月12日記 薮下哲司



なお、公演は1月27日まで梅田芸術劇場メインホールで行われ、まだ日によっては若干チケットが残っている日もあるようだ。