135回直木賞候補作


「砂漠」             伊坂幸太郎  実業之日本社  

「安徳天皇漂海記」        宇月原晴明  中央公論新社

「遮断」             古処誠二   新潮社

「愚行録」            貫井徳郎   東京創元社

「まほろ駅前多田便利軒」     三浦しをん  文藝春秋

「風に舞いあがるビニールシート」 森絵都    文藝春秋




いままで2年以上ブログを続けてきたが、文章に「だめだしライン」を引くのは
ブログ生活で初のこと。文藝春秋の皆様には悪い夢を見させてしまっているが、
「だめだしライン」の2作品に直木賞受賞のチャンスはない。
その理由は前回に述べたとおり、初選出時の出版社がどこかということが
影響を及ぼすからだ。2人の初選出作品が文藝春秋社から出版されていれば
今回の受賞は十分考慮されてしかるべきだった。
今回の三浦しをん氏、森絵都氏の2人にとってはちょいと敷居が高いようだ。
選考委員の選評というのが文芸誌「オール読物」に掲載されるのだが、

「次回作に期待したい。」

と逃げ道をつくるコメントでお茶を濁すこと必至であろう。



● 「愚行録」  貫井徳郎   東京創元社  初選出

まさに晴天のへきれき。まったくのノーマークに思わず頬がゆるんでしまった。
まずはこの東京創元社という出版社がかつての直木賞の舞台に登場した記憶は、
あるじのオレがもうろくしていない限りない。
候補作予想をする時の目安の1つは出版社だ。

文藝春秋社、新潮社、講談社、集英社、中央公論新社、角川書店、
マガジンハウス、幻冬舎、

が予想候補作の第一関門と設定しているため、自然と東京創元社はふるい落とされ
てしまうのだ。おまけにこの出版社は「推理モノ」に強いとの印象が強く、実際に
著者の作品も事件や推理を扱ったものが多い。心理描写や人間模様を強烈に訴えかける
作品であるなら許容範囲だが、この作品は違う。
大相撲で中堅平幕力士が横綱大関の不振にかこつけて優勝するようなものだ。
残念ながら見送りが懸命だ。


● 「安徳天皇漂海記」  宇月原晴明  中央公論新社  初選出

7月発表の直木賞を予想する際、必ず確認しておくべき情報がある。
5月に発表された新潮社が母体の山本周五郎賞だ。
本作品がその受賞作品である。

直木賞選考委員はこの山本賞を受賞した作家、作品に対し、軽く次のようにのたまうのが
通例だ。

「この作品は山本賞を獲っているから今回はちょっと....」


とまるでママに悪いことをしたことを指摘されてその言い訳にシドロモドロになる坊や
のごとく歯切れが悪くなる。いい大人だよ、まったく。
作品自体も直木賞に求められる大衆性や一般ウケといった一億総中流にあわない異色の
タイプの作風だ。それゆえ、ディープなファンも多い。
実際本作品は手元にあり、現在読書真っ最中の1冊である。
おもわず世界にどっぷりディープにつかりそうだ。

ただし出版社の視点で見るなら、中央公論新社からの初選出は将来直木賞を獲れる可能性を
残している。異才の点で共通する京極夏彦氏が中央公論新社を経てのちに角川書店で受賞
している。山本賞と直木賞の両方を受賞できる作家というのも

熊谷達也
京極夏彦
江国香織
乙川優三郎
重松清
篠田節子
宮部みゆき
船戸与一

と8名いる。山本賞は現在までに19回開催されており、決して将来受賞の可能性は
低くない。



● 「砂漠」 伊坂幸太郎  実業之日本社  2回連続5度目


いつ獲るかいつ獲るかと言われ続けてまもなく3年が経とうとするが、どうやら
直木賞の罠にはまりつつある作家である。
賞を期待されて獲る作家は初選出、遅くても3回目の選出で期待に応えるものだ。
それが期待されるたびに選考委員にがっかりされる。
林真理子氏が「期待とがっかり」を選評で繰り返している。
今選出作家中、最も多い5度の選出経験を持つ伊坂氏はどこか空想の世界に入り
込んでいるような感がある。作品の舞台や内容がどこか飛躍しすぎたデキとなっており、
年老いた選考委員達を黙らせるには少し規制が必要なのかもしれない。ただし、
賞のために作風を変えるのは著者の本意ではないだろう。
わずかな違いのことだと思う。
出版社の実績も考慮すれば、今回の受賞は考えられない。



● 「遮断」  古処誠二   新潮社  3回ぶり2度目


古処誠二氏は今回選出された作家の中で、最も人気がないと思われる。
なぜなら、彼の一連の作品は一貫して太平洋戦争時の沖縄を題材にしたものだからだ。
"戦争文学の新鋭"とお墨付きをもらう著者だが、テーマが重いために読者に敬遠され
やすい作品と位置づけられるのだ。
しかしながら、重いテーマの中で芯は決して外さない。情景描写は非常に生々しく、
人物描写にもキレがある。作品に成長も感じられる。

データの観点から著者の初選出を確認すると、集英社からの出版である。
集英社という出版社は直木賞選考においてエリートコースの1つといっても過言ではない。

江国香織
石田衣良
逢坂剛

はのちに直木賞作家に輝き、

船戸与一
佐藤賢一

は初選出での直木賞受賞だ。

また前述のとおり文藝春秋での初選出は文藝春秋からということは、言い換えれば
他出版社での初選出は他出版社から

というのが原則である。

消去法という形で突き詰めてみた場合、唯一残るのはこの作品となる。

しかしだ。ここまで答えを言っておきながらちょっと待った~と苦言を呈するならば、
やはり山本周五郎賞に話を戻さねばならない。この作品は新潮社からの出版なのだ。

2ヶ月前に新潮社が母体のこの文学賞において、候補作として彼らは

文藝春秋社刊  福井晴敏 「Op.ローズダスト」

福井 晴敏
Op.ローズダスト(上)
を選出しておきながら受賞をさせなかったという事実がある。 この屈辱に対し報復行為を忘れるほどお人よしな文藝春秋社ではないことは承知している。 受賞に最も近いと言いながら、 「次回作に期待したい!」 と受賞にふさわしいにもかかわらず、新潮社であるがゆえに強烈な仕返しを浴びせかける 恐れがある。 一方の新潮社もそれに備えるかのように、いまのところ本作品を在庫切れの状態の ままにしている。 そして新潮社による宣戦布告の答えを文藝春秋社はすでに用意していることだろう。 [結論] これだけ読ませておいてまことに恐縮ではあるのだが、 第135回直木賞は 該 当 作 品 な し の予想でお許しいただきたい。 128回以来2年半ぶりのこの結果に文芸界はますます尻すぼみである。 ついでにあるじの夏へ向けての調子も尻すぼんでいる。 しかし、予想の1つでもビシッと的中させることができれば、 いささかの慰めにもなるのだが......... そうは問屋がおろさないだろうな。やはり。 お礼 発表は7月13日でございます。なお予想が外れましても、当ブログのあるじは一切の責任を 負わないとのことですので、あしからず。   by あるじの広報より
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