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 本日は宝島社から3月に刊行予定の「ドル凋落(仮タイトル)」の締切日でございます。
 元々、このお仕事をお引受した時点では、わたくしと編集さんの頭の中には、巷を賑わしている「ドル暴落!」や「米国債、格下げ!」などのカタストロフィ的な「イメージ」があったわけでございます。
 ドル暴落とは、インフレ率急騰もしくは米国債格下げ、金利高騰により、1ドルが50円を切るような「イメージ」です。米国債格下げは、アメリカ政府の海外債権者に対するデフォルトが間近に迫り、三大格付け機関がAAAを見直す、といった感じの「イメージ」です。
 何で「イメージ」としつこく書くのかといえば、現実にはムーディーズなどが米国債の格下げをするなど政治的にあり得ないし、海外投資家のシェアが半分(厳密には49%)を占めるとはいえ、自国通貨建ての国債をアメリカ政府がデフォルトするなど、こちらもまたありえないためです。
 とは言え、「何となくこんな感じかなあ・・・・」といったストーリー、あるいは仮説がないと、データを調べるにしても何から始めたらいいのか分からないわけです。
 
 というわけで、前述のストーリーに基づき、アメリカのバランスシートやらマネーサプライやらのデータを分析し、グラフ化していったわたくしは呆然としてしまいます。当ブログでも何度かご紹介致しましたが、少なくとも09年9月末までのデータを見る限り、
「アメリカの家計と民間のみならず、金融機関までもが負債を減らしている」(その分、連邦政府が孤軍奮闘で負債を増やし続けている)
「FRBがマネタリーベースを増やしても、マネーサプライはその半分しか増えていない
 という、あり得ないような事実が次々に明らかになってきたのです。

【中央銀行によるマネタリーベース(預金準備)供給の仕組み】
http://members3.jcom.home.ne.jp/takaaki.mitsuhashi/data_27.html#Kaitori

 現在のFRBのように、市中から債券(主にGSE債)を買い取り、代わりに預金準備(要は通貨)を供給すると、マネタリーベースはその金額分だけ拡大します。
 預金準備とは、金融機関が中央銀行に持つ当座預金残高(金融機関の「預金」なので、中央銀行にとっては「負債」)であり、金利はつきません。金利がつかないお金を資産計上させておくことは、金融機関にとって鬼門なので、普通はこのお金がすぐに民間への貸付にまわり、マネーサプライを拡大していくわけです。先日も書きましたが、04年からリーマンショックまでのマネーサプライは、平均でマネタリーベースの九倍程度を維持しています。
 ところが、リーマンショック後の現実のアメリカではマネタリーベースの半分しかマネーサプライが増えていないわけですから、尋常な事態ではありません。金融機関からお金が民間に流れない理由は、

◇そもそも民間が負債を減らし続けている以上、資金需要がない
◇一般家計や中小企業などに対しては、銀行側が与信を厳しくして貸せない
◇BIS規制があるため、自己資本比率を引き下げるリスク資産拡大には踏み込めない

 などがあるのでしょうが、それにしても凄い状況です。
 とは言え、民間にお金を貸しにくいとはいっても、お金をFRBの当座預金で眠らせておくわけにはいきません。手元のマネーの「運用難」に悩んでいるアメリカの各金融機関が、最も求める金融商品は何でしょうか?

 もちろん、米国債です。

 オバマ政権は財政支出増加の三年間凍結(国防などは除く)を打ち出しましたので、米国債の発行ペースは遅くなります。そうなると、運用難に悩むアメリカの国内銀行は、ますます国債に殺到し、長期金利は高騰するどころか、むしろ低下していくのではないでしょうか。
 
 国債から通貨の方に目を移すと、こちらも当初の予想とは異なる局面を迎えつつあります。
 そもそもチャンネル桜において、有澤氏がみもふたもない言い方をしていたように、為替レートとは今や「不美人競争」です。どの通貨が買われるかではなく、どの通貨が買われないかにより、レートが動いているわけです。

【主要通貨の対ドル推移 2010年1月】
http://members3.jcom.home.ne.jp/takaaki.mitsuhashi/data_27.html#vsUSD

 真ん中の青い横棒は0%を意味してるわけではなく、ドル固定相場制を採用している人民元の対ドルレートです。未だにドルペッグを外せない人民元について、「次の世界の基軸通貨だ!」などと主張している人が日本国内に少なくないですが、そういうことは、せめて人民元がハードカレンシーとまでは言いませんが、変動相場制に移行してから言って欲しいものです。
 豪州ドルは一時的に対ドルで5%近く上昇し、今は戻ってきています。これは「ドルキャリー」による新興経済諸国投資バブルの終焉を示唆しています。
 そして、主要通貨の中で唯一、対ドルで下落して行っている通貨。すなわち、「不美人競争」に勝とうと(?)している通貨がありますね。そう、ユーロです。

 ユーロが下落しつつある理由は、今さらクドクド書きませんが、もちろんPIGS(ポルトガル、アイルランド、ギリシャ、スペイン)です。特に、ギリシャ問題は明らかにクライマックスへと進みつつあり、その結末次第では残りのユーロ諸国もどうなるか分かりません。

『アルムニア委員:EUにはギリシャ救済という「第二案」ない
http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=infoseek_jp&sid=auIwJoXx3HZE
 欧州連合(EU)の行政執行機関である欧州委員会のアルムニア委員(経済・通貨担当)は、ユーロ圏当局はギリシャを救済するという「第二案」を用意してはいないと言明した。EU加盟国で最大の財政赤字をギリシャが削減する能力について、投資家の疑問払拭に努めた。
  アルムニア委員は29日、世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)が開催されているスイスのダボスでブルームバーグテレビジョンのインタビューに応じ、「救済問題は存在しない。ギリシャはデフォルト(債務不履行)しない。ユーロ圏にデフォルトは存在しない」と断言した。
  EUによる救済が必要になるとの観測を背景に、ギリシャ国債は急落している。パパンドレウ首相は28日、ギリシャは金融市場のうわさの犠牲者だと発言し、EU諸国に融資を求めていないと明言した。(後略) 』

 オバマ政権(というか、ボルカー氏?)の方針で、金融が規制方向に進み、ドルキャリーの巻き戻しが始まり、ユーロがここまでグダグダでは、「ドル暴落!」のストーリーも荒唐無稽になってしまいます。

 別に経済に限らず、何事につけても「仮説」と「現実」の区別をつけることが大切ということでございますね。この本を書いていて、つくづくと思いました。

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