2000年のITバブル崩壊、2001年のセプテンバーイレブン以降、FRBのFF金利史上最低レベルへの引き下げを受け、アメリカ人は不動産バブルに酔い、住宅価格の値上がり分を担保に融資を受けるホームエクイティローンなどにより消費を拡大させてきました。
 中国を始め、貿易黒字各国はこのアメリカ人による「借金による消費」の恩恵を被り、世界経済は「インフレなき高成長」という、かつて無い成長路線をひた走ってきました。
 なぜ二十一世紀初頭以来の好景気において、インフレーションの勢いが緩和されたかと言えば、幾つか理由が挙げられますが、ベルリン崩壊以降の東欧諸国や旧ソ連各国、それに改革解放後の中国などがグローバル市場に参加した効果が出てきた点も大きいでしょう。旧東側諸国と旧西側の所得格差はかなり開いていましたので、各国で生産される製品の労賃を押さえつける効果が働きました。
 また、グローバリズムの声の元に、やはり低賃金なアジア諸国が国際市場に参加することで、2005年くらいまでは労賃の上昇はそれほど顕著ではありませんでした。
 さらに世界の工場と化した中国が、完全に過剰設備状態に陥っていたため、供給能力が需要を上回った結果、物価の上昇が押さえつけられる効果が働きました。
 今の中国も、資源や食糧こそ高騰しているものの、工業製品の価格が国内で下がり続けています。結果、中国は余った製品を北朝鮮に叩き売ったり、アフリカから買い付けた原油の代金の代わりに余剰生産品を押し付けたりして顰蹙を買っています。中国国内では政府が補助金を出して(要は大々的な値下げをして)まで、工業製品の在庫をさばこうとしていますが、沿岸部の一部の地域を除いて、中国人の所得はまだそれほど高くありませんので、売るに売れない状況です。ご存知の通り、半ドルペッグ制により過度の人民元高が抑えられている点も、中国人の購買力拡大に制限を掛けています。
 北京五輪後の中国はインフレーション、失業率上昇、株&不動産バブル崩壊という三重苦に痛めつけられることになりますが(既に痛めつけられていますが)、この国の経済の最大の問題は、この過剰供給力だと個人的には思っています。
 先日も書きましたが、世界には中国人全員を豊かにできるほどの需要は存在しません。2006年まではアメリカ人の借金による需要(消費)が中国の輸出産業を下支えしてくれていましたが、それも2007年のサブプライムローン危機で終わりました。
 アメリカ人といえば貯蓄をせず、有り金に借金を加えて消費しまくる国民性で有名ですが、このアメリカの貯蓄率に異変が起きています。

『米貯蓄率が急上昇 13年ぶり水準、5月5%に
http://www.nikkei.co.jp/kaigai/us/20080705D2M2802905.html
 米国の家計貯蓄率が5月に5.0%となり、約13年ぶりの水準に急上昇したことが米商務省の調べで明らかになった。緊急経済対策の柱である所得税減税が本格化したものの、家計はすぐに消費を拡大することには慎重で、とりあえず減税分の多くを貯蓄に回したもよう。経済成長のけん引役である個人消費が力強さを欠く中、米国民の間で景気の先行きへの不安が深まっている可能性がある。
 米商務省が明らかにした「家計貯蓄率」は、税金の支払いなどを差し引いた個人の可処分所得のうち、どれだけを貯蓄に回したかを示す割合。5月は5.0%と、4月の0.4%から急上昇した。米メディアなどによると1995年3月以来の高水準となった。』

 アメリカの貯蓄率が5%に達するなんて、一体、何年ぶりだろう。と、思ったのですが、きちんと書いてありますね。1995年以来、つまり13年ぶりということになります。
 サブプライムローン問題(から始まる金融危機)に対処するため、ブッシュ政権は所得税の減税を実施しましたが、効果はあまりなかったということです。さすがに実体経済の環境がこれだけ悪い中では、所得税の還付を受けたアメリカ人も、喜んですぐに消費に使ってしまうほど単純ではありませんでした。
 アメリカ人の消費縮小(つまりは世界的な需要縮小)のサインは、貯蓄率上昇だけではありません。

『米JPモルガンは消費者ローンの貸倒償却増を予想-ホイットニー氏
http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=infoseek_jp&sid=ay_M_YxFYwm0
 7月28日(ブルームバーグ):オッペンハイマーのアナリスト、メレディス・ホイットニー氏は投資家向けリポートで、米銀JPモルガン・チェースは消費者ローンの貸倒償却が増えることを予想していると指摘した。
  同氏は27日付のリポートで、JPモルガンの消費者ローン貸倒損失予想は同行が4-6月(第2四半期)に計上した貸倒引当金に反映されているとし、償却率1.67%に対し引き当て率は2.57%だと書いている。ホイットニー氏はJPモルガンのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)と25日に会見した後にリポートを作成したという。
  ホイットニー氏は「ダイモンCEOはホームエクイティローンの貸し倒れ率が若干低下する一方で消費者ローン全体の貸し倒れは増加する公算が高いとみている」ことから、「中期的には貸倒引当金をかなり積み増すだろう」との見方を示した。(後略)』

 アメリカの消費者ローン金融会社は、貸倒(つまり借り手の債務不履行)が増加する事を予想し、引当金を積み上げ始めました。こちらは消費縮小と言うよりは、アメリカ一般国民の借金による資金調達が限界に達した事を示唆していますが、いずれにしても世界的な需要には悪影響を与えるでしょう。

 二十一世紀初頭に世界経済を沸かせた「インフレなき高成長」は終了しました。
 わたしが日本経済について語るときに「個人消費!個人消費!」と叫んでいるのは、別に内需がでかい日本経済を礼賛したいわけでもなんでもありません。アメリカの個人消費という世界経済の牽引車が停止した以上、「巨大な規模の需要」として世界に残されているのが、もはや日本の内需、個人消費しかないと考えているからなのです。 

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