デフレ時代に国民負担だけがインフレ化 | 太田忠の縦横無尽

デフレ時代に国民負担だけがインフレ化

「事業主の皆様へ

本年3月分から協会けんぽの保険料率が変わります」


私のもとへ先月、一通の通知が来た。協会けんぽ(全国健康保険協会)の東京支部からのものであり、3月分の保険料(4月納付分)より保険料率をアップさせるという内容である。毎年、社会負担が増加するのは重々承知しているが、その数字を見て驚いた。


【協会けんぽ東京支部の料率改定】

 健康保険料率:現行8.18%→9.32%

 介護保険料率:現行1.19%→1.50%

 合計:現行9.37%→10.82%


企業収益が落ち込み、年収が減少し、デフレ色にますます磨きがかかるこのご時勢において、今回の提示はちょっと信じられないくらいの上昇率である。介護保険料は40歳から64歳の人たちが負担するものなので全員に適用されるものではない。しかしその健康保険料だけの人でも+13.9%、介護保険料も支払う人では+15.5%のアップである。ものすごいインフレである。モデルケースとして月収28万円の場合(介護保険料分除く)の従来比の負担増加金額が示されているが、労使で月額3200円増、労使で年額42000円増というのが今回のインパクトであり、いかに強烈なものであるかがおわかりになると思う。


協会けんぽの説明レターでも「かつてない大幅な引き上げ」という表現がなされ、先手を打つかのように「皆様の総報酬額が医療費以上に伸びなければ(保険料収入は総報酬額に比例するため)、必要な医療費支出をまかなうために保険料率は上がり続けることになってしまいます」とある。


「収入の伸び」>「医療費の伸び」という不等式が成り立つのはこれから少なくとも20年間くらいは絶望的なので、個人負担、企業負担ともに上がり続けるということである。全国のありとあらゆる健保組合は程度差はあれ同じボートの上に乗っている。


今朝の日経新聞の社会面でも報じられていたが、健康保険料が支払えず「病気になっても病院に行けない」という人たちが急増している。この現象はこれまで日本が直面したことのない問題であり、保険証がないから、けがをしても、高熱になっても病院に行くことができない無保険の子どもたちの報道は心が痛む。
4月からのかつてない保険料率のアップは一層問題を深刻化することは間違いない。


国民負担は健康保険だけではない。消費税、所得税、年金などありとあらゆるものが収入がデフレする中で、これからどんどんインフレ化していく。民主党政権になって支出ばかりに奔走する政策を見るにつけ、このミスマッチが鮮明に意識されるようになってきた。ますます閉塞感に包まれる世の中になる。


太田忠の縦横無尽 2010.3.4

「デフレ時代に国民負担だけがインフレ化」

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