広告会社が広告を見て広告依頼する時代 | 太田忠の縦横無尽

広告会社が広告を見て広告依頼する時代

料理研究家であるうちの妻が主宰する料理教室「サロン・ド・マルルー」 における最近の話である。


もう始めてからかれこれ4年ほど経ち、生徒も順調に増えているのだが、1月にOZ Magazineという情報専門誌の広告担当者から「一度、ぜひ広告の掲載をお願いします」という電話が彼女あてにかかってきた。


「通常の広告枠の料金は16万円ですが、半額キャンペーンをおこなっており、ぐっとお安くなっています」

とのことだった。いろいろと詳細を聞いたところその全貌がわかってきたため、

「1ページの1/8のスペースで8万円は高いですね」と彼女。

「おいくらならば、掲載可能でしょうか?」と担当者。

「うーん、5万円ならばどうでしょうか?」と彼女。

さすがに、この値段は担当者の一存では決められないレベルであったようで、

「上司と相談してみます」

ということで結局6万円という、通常価格の「半値八掛け一割引」という金額で2月発売の3月号のカフェ大特集における「春のスクール特集」というページに掲載された。


これまでうちの料理教室は対外的に広告を出したことがなく、ホームページによる申し込みと生徒間での口コミによって固定客を増やしている。要するに「料理がうまくなりたい」という意志を持つ人が自分の意志で入会するというケースが大半である。だから、今回のように世間一般に向けて広告を出したらどうなるのか、というのは実験的な意味もあってこちらとしても興味があった。しかも好条件である。


さて、その後どうなったか?


雑誌が発売されて約2週間が経過したのだが、電話がかかってくるのである。だが、料理教室の希望者ではなく、この雑誌を見た同業の雑誌の広告担当者からの電話である。正直言って予想外の展開だ。そのうちの一本をたまたま私が先週受けてしまった。


「もしもし、サロン・ド・マルルーさんでしょうか」

「はい、そうですが」

「あの、こちら女性誌ア○ア○の広告担当のものですが、料理教室の広告のご案内でお電話いたしました」


ア○ア○というのは、皆さんもご存知の超有名雑誌である。しかし、なぜ突然こちらに電話をしてきたのかを聞くと、

「OZ Magazineを見ました。ぜひうちにもどうでしょうか。ア○ア○に掲載された、というだけで自慢できますよ」

と担当者は調子に乗って話し始めた。

OZ Magazineに掲載したのは、発行地域が関東圏に限られているからだ。しかし、ア○ア○は、全国誌ではないか。


「あれ、御社は全国誌ですよね」

「はい、発行部数○十万部の全国誌です」

「じゃ、結構です。うちの料理教室は世田谷なので」

「でも発行部数の30%強は関東圏ですよ」

「ということは、70%弱はこの広告を見ても全く意味がないですね。大阪の人や福岡の人が世田谷まで通いますか? 全く効果のない70%弱にコストを払うのは割に合いませんね」

「大阪や福岡に教室を出す予定はないのですか?」

「うちは、チェーン展開していないし、FCも募りませんので」

「でも、先日も池尻大橋のマナースクールの広告を取り扱ったんですがね」

「そのマナースクールの担当者はよくわからずに広告を出したんではないですか?」


途中から脱線し始めたので、結局はこちらの意志をきっぱり告げると、先方は引き下がった。


なるほど、と思った。今や広告が激減している世の中、よそで広告を出している企業なり事業主ならば自分のところにも出してくれる確率が非常に高いだろう、と見込んだ上で電話をかけてくるわけである。私が直接電話をとったのはア○ア○の一件だけだったが、妻のところにはいろいろと電話がかかっているらしい。


新聞広告を見よ。広告枠が埋まらないために自社あるいはグループ会社の広告をあっちこっちに分散して掲載している。あからさまに悟られないための涙ぐましい努力である。それだけどこも広告を出さないのだ。


まさに広告会社が広告を見て広告依頼するという、安易というか厳しい時代である。


太田忠の縦横無尽 2010.2.24

「広告会社が広告を見て広告依頼する時代」

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