公的年金制度から自由意志で脱退できる選択肢を提供せよ | 太田忠の縦横無尽

公的年金制度から自由意志で脱退できる選択肢を提供せよ

ちょうど2週間くらい前になるだろうか、政府による公的年金の試算が発表された。その公表内容は以前にも増して劣化しており、公約内容達成のための試算方法は悪質化していた。私は数年前より、公的年金の運営はもはや正常に戻すことは不可能と考えていたが、今回の内容を見て、さらにそれを確信した。もはや腐敗化を止める手段などどこにも残されていない。


メディアも面白おかしく取り上げていたが、「給付水準50%を確保する」という前提でその公約条件を満たしていたのが、日本の標準世帯だと定義される「夫は40年間会社勤め、妻は40年間専業主婦」というモデルケース(そんな奇特な世帯が果たして日本にどれくらい存在するのだろうか)のみ「50.1%」の確保という体面を保っているだけで、その他の共働き世帯や単身世帯では40%を切る水準が提示されている。しかも、これらの計算は年金を運用する前提条件がはなはだ楽観的数字なのである。年率4.1%の利回りなどどうやって確保するのだろうか。


そうすると現実的には、一般的な世帯では給付水準25%のレベルさえも維持するのは難しいのではないか、と私は考えている。


また、払った保険料の何倍が受け取れるか、という点についても70歳では6.5倍に対して、30歳では2.3倍というのは「公的」という概念では存在してはならない世代間格差であり、ここまでくるとこれはもう詐欺まがいの制度と言える。本当は30歳では2.3倍どころか1倍を割り込むだろう。


「若者よ、怒れ、立ち上がれ」と言いたいところだが、30歳以下の若者たちからの反対運動は全く聞かない。政治は常に投票権の多い世代をターゲットに選挙がおこなわれ、政策が推進される傾向があるが、もはや過度な福祉や欠陥だらけの不公正制度はきっぱりとやめたほうがいいのではないか。「国ではもう対応できません」と限界を認めて白状するのが誠意のある対応ではないだろうか。


貧乏人から金持ちへの所得移転はもうそろそろ打ち止めにしよう。日本における世帯当りの純金融資産の金額をご存知だろうか。70歳以上が最も金持ちで、2026万円を所有する。一方、30歳台は最もプアーで-212万円である。40台でも148万円という悲惨な数字である。この事実は見過ごすことはできないだろう。


実は日本の金融資産を年代別に見ると、死ぬ直前がいちばんお金を持っているのである。しかも、本来ならば、金融資産の再配分という意味で相続がどんどん進めば良いのだが、相続税はほとんど改善されていない。結局、国が所得税をかすめた後の金融資産も庶民からまんまとピンはねしているのが実情である。


これ以上、国による公的年金の運営は無理である。とにかく、納めた分は返してもらい、このバカげた制度から脱退する選択肢を作る必要がある。「100年安心」といった大ウソの宣伝で、結局人生設計が描けもしない制度への強制加入はごめんである。そういえば、私は年金を支払わない人たちが続出していることをずっと「けしからん」と思っていたのだが、彼らこそ「賢明なる」人たちに見えてきた。さよう、今の時代、賢明ならば年金制度になど加入しない。しかし、そうもいかない立場の人たちが大半なので、自由脱退制度を作る必要がある。そして、自分の老後は自分で設計することの自由と決意を自分の手で勝ち取る、という権利を主張しようではないか。


私は、年金が1円も入らなくてももはや驚かない覚悟で、我が家の将来設計を考えているが、これから「公的」に頼らない「私的」な資産運用力がないとやっていけない世の中になることだけは「確実」である。「年金支払い開始年齢は75歳からです」とか、「消費税は15%になります」と、勝手に押し付けられても驚かないようにしよう。いや、まことに厳しい世の中になっていくだろうねぇ。


太田忠の縦横無尽 2009.6.10

「公的年金制度から自由意志で脱退できる選択肢を提供せよ」

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