デブ猫の奇妙な行動 | 太田忠の縦横無尽

デブ猫の奇妙な行動

ノラ猫というわけではないが、近所で猫たちを時々見かける。たいていはこちらに関心を示さず、ばったり出くわしてもすごすごと逃げていくのが普通だ。


ところが、奇妙な猫との関係が続いている。それは今年の1月の終わり頃より始まった。


我が家の玄関ドアの外側には靴の汚れを落とすためのマットが敷いている。ある日、外出先から帰ると、玄関先から一匹の猫が逃げ出す姿が見えた。動作は俊敏ではなく、まるまる太ったグレーのデブ猫だった。全く可愛げというものがない。私は少々気分を害したものの「しかないヤツだな。たぶん迷い込んできたのだろう」と2、3日もすればすっかり忘れてしまっていた。


そして、2月の急激に冷え込みが厳しかった早朝、玄関を開けてみるとびっくりした。マットが毛だらけになっているではないか。すぐにピンときた。ヤツだ。あのデブ猫だ。マットが暖かいからそこで休憩して毛づくろいをしていたのだ。今度は妻が不機嫌になった。その日から毎夜、マットは家の中にしまわれることになった。


そして数日後、またあのデブ猫を散歩の途中、近くの空き地で見かけたのである。


「あ、あそこにいる」と妻に向かって私が叫んだとたん、猫もこちらを見て不敵な表情で「にゃあ」と鳴いた。「絶対、あいつは私に嫌がらせのつもりで鳴いたに違いない」。心の中で敵意が生じた。


それからまた何日かして妻が「今日、とても変なことがあったの」と夕食時に話をし始めた。「例のデブ猫が、家に帰る途上で突然道端から飛び出してきて、私にピッタリ寄り添いにゃあにゃあ鳴きながら、ずっと犬の散歩のようについてきた」とのことである。


猫は基本的には自分勝手な行動しかとらない。いくら飼い猫といっても、外に連れ出してリードなしで歩けば、飼い主にだってぴったり寄り添うように散歩してくれるはずがない。飼い猫でもない人間に「にゃあにゃあ」と鳴きながらくっついて歩く。しかも家の前までお供をするなんてことはありえないことである。その続きはどうなったのか。聞かずにはいられなくなった。


「本当にうちの玄関のところまで一緒に来たので、私がこの家の住人だと気づかれないように家の裏手に回って猫を連れ出して何とか追い出そうとしたけど、どうしても離れずにまた玄関までくっついてきたのよ」。そして最後は仕方がないから玄関先で「しっ、しっ」と追い払ったそうだ。私に頼んでも仕方がないため、もう一人の住人である妻に「何とかマットを使わせてくれ」とゴマすりをしつつ懇願に来たとしか思えない。それにしても何時、彼女のことを偵察していたのだろう。


あれからおよそ2週間が経つ。全く見かけなくなったが、一定の時間をおいてほとぼりが冷めるのを見計らっているような気がしてならない。最近はマットは夜もそのまま外に出したままで、こちらも様子を窺っている。