画面構成・レイアウトの話 | Tempo rubato

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アニメーター・演出家 平松禎史のブログ

2015年もあと3日とちょっとになりました。(追記訂正・あと4日ですね(^_^;))

仕事中心の感覚ではいつものように月が改まるだけなんですが
一年が終わって次の年を迎えるにあたって、皇居では大晦日から元日にかけて最も重要な祭祀が行われます。
天皇陛下が徹夜で一年の穢(けがれ)をお祓いしてくださるのです。

飲んで騒いで年越するのも大いに結構。
年が明けたら、酔っ払って寝ちゃう前に近所の小さな神社でも良いので初参りをしましょう。
静かに年の始まりを実感するのは気が引き締まって良いものです。(ヨッパラー前提で書くのもどうかと思うけどな・・・)


さて
最も多い質問は「レイアウトの描き方」なんですが、これほど難しい質問はありません。
要素が多い上に、作品ごと、場面ごとに意味合いが違ってくるからです。
原画でもそうですが、一般論だけでは不十分で、誤解を生じることもあり得る。なので、基本知識を習得し、実際に描き始めた若手新人に教える場合は一緒に作品に関わりながら学んでもらうのが良いと思っているんです。
実戦での実践ですね。


作業工程のひとつひとつには目的があるのですが、認識を曖昧にしたまま作ってしまうと、完成した作品が観客に誤解を生じさせたり、伝えたい事が伝わらない、ぼやけた作品になってしまう可能性が高まります。

画面構成、レイアウトとは何か、何のための工程なのか、明確にする必要があります。

一般論化するのは難しいのですが、あえてやってみましょう。
ボクの主観(考え方)がどうしても入ってしまいますけどね。

ちなみに、絵コンテ以降の話なので、適切な絵コンテを前提に話をします。
絵コンテが適切でなかったらどうするか? これは全く別な話ですからね(^_^;)


場・時・気 レイアウト必須の三要素

「レイアウト」は、物語を構成する映像作りの最初の工程です
レイアウト作業は「演出から原画への橋渡し」の存在です。

演出は、脚本を絵コンテという形に翻訳します。文字で描かれた物語を、一連のカットで構成して映像化の設計図を作る作業です。脚本を正確に読み取る必要があります。
原画マンがレイアウトを描く時は、絵コンテから演出意図を正確に読み取ってレイアウトへ翻訳する必要があるのです。

「5W1H」つまり「いつ・どこで・誰が・何を・何のために・どのように」を明確にするのが基本ですが、3つにまとめて

場所
時間
気持

とします。
この3つを適切に画面構成するのがレイアウトの役目です。
ですから、ある1カットを描くためには1場面の流れを読み取らなくては描けません。最低でも前後カットを考えないと描けないものです。

3つの要素を簡単に解説します。

場所…舞台のこと。どんな場所なのか。そこに何があるか。天候の状態はどんなか。
時間…朝、昼、夕、夜…どんな時間帯なのか。時間の流れ方はどんなか。
気持…登場人物の気持。目的。動き。人物が出ない情景カットでも気持ちが込められています。

絵コンテは、この三要素をおさえて描きます。レイアウトは絵コンテの演出意図を理解し、映像化するために必要な材料を揃える仕事です。
演出から原画への橋渡しと書きましたが、正確にはそれ以降全ての工程への橋渡しです。

演出上の三要素には、サイズ・アングル・画角、という三要素も密接に存在します。
なぜクローズアップなのか?、なぜアオリなのか?、なぜ望遠レンズなのか?などなど
すべて演出意図があります。
しかし細かくなりすぎるので、今回は省いて「場・時・気」に絞ります。


最も重要なのは「気持」です。
「場所」も「時間」も、動きも、気持を表現するために考えられます。
気持が動かなければ、体も動きませんからね。メカ描写だって気持の動きが存在します。
演出面ですが、気持の動きなしにカメラも動きません。演出家によってカメラワークの使い方は異なりますが、基本的にはFIX(固定カメラ)で表現できて、どうしてもカメラを動かす時は、「どうしても動かしたい気持」が必要になるのです。
人物の動き、動かし方も同じです。

絵コンテの絵が達者でも丸チョンみたいな簡単な絵でも、作品が表現しようとする内容、担当する場面の意図、カットに求められている意図、登場人物の気持、を理解することが大前提です。

場面のできごとによって、三要素の重要度、優先度が違ってきます。
会話場面とアクション場面では必要な要素が違ってきますよね。カットごとにも違いがあります。

何がどう違っていて、それぞれに何が必要なのか。
レイアウトは、それを明確化する作業です。

続いて具体的に考えてみます。


リズム感

動きを中心にした話になります。
絵コンテでは、あらかじめカットの長さが決められています。
一連の動きが複数カットで要求されている場合、動きのポイントがどこにあるのか決定するのもレイアウトの役目です。
経験を積むと、カットの長さを見て、どこにポイントを置くべきかすぐに理解できるようになります。

たとえば、格闘戦のような状況で、人物が相手に跳び蹴りを食らわす動きを5カットで表現しているとします。
1:「行くぞ!」と決意する主人公。クローズアップ。(2秒)
2:ダッシュして走りこみ相手へジャンプ。両者をとらえたフルサイズ。(2秒半)
3:蹴りが炸裂して吹っ飛ぶ相手。相手を中心にとらえた腰上のサイズ。(1秒)
4:着地してガッツポーズする主人公。(1秒半)
5:のびている相手と勝利した主人公の全景。(4秒)

この5カットをセリフで表すと「オレは・あいつを・蹴っ飛ば・して・勝った!」になります。
(絵コンテをやる時は、カット割りをする前に脚本を読みながらこんな「映像セリフ」に翻訳しています。これはヒッチコックのやり方ですが、おそらく映像演出の基本だと思います。)
重要なのはカット1の「決意」です。これが印象付けられないとその後の4つのカットに説得力がなくなります。
カット2と3は過程を2つに分けています。蹴りのカットを分けているのは結果を明確にするためです。
カット5は、一連の決着が付いた「結果」です。

カット1では決意を固めた表情で駆け出す気持が表現されます。
カット2では駆け出しててジャンプするまでですから気持ちの変化は一直線に盛り上がるように表現されるのが適切で、カット頭からすぐにダッシュする必要があります。このカット頭にまで「行くぞ~」を引っ張ってしまうとリズムが悪い。引っかかってしまいます。
勢いのある走りとジャンプの動きがメイン。
カット3は、1と2が十分であれば、蹴られて吹っ飛ぶ動きがカッコよければOKです。ここでも、カット頭に相手が身構える動きを入れてしまうとリズム感が狂います。せいぜい意外な跳び蹴りに「うっ」となる8k(3分の1秒)程度なら蹴りの動きとメリハリが付いて良いかもしれません。蹴られてふっとんだ後も短くて良い。1秒という短い尺から読み取りましょう。
カット4は着地して技の成功を確信し、ガッツポーズを決める。勝利の気持に重点が置かれます。
カット5は勝利の気持がその場を支配する情景、結果を表しています。そのための「良い絵」が求められます。
宇宙刑事モノで技が決まった後、大爆発をバックに悠然と歩く宇宙刑事、なんてのが典型的ですね。


カット単位で説得力を高めようとすると、前後カットでやっている要素を持ち込んでしまったり、動きを複雑にしてしまいやすい。しかし、そうすると、一連の流れがモタモタと歯切れの悪いものになってしまいます。

というわけで、この5カットの場合は、カット1の「決意」で後続カットの方向性が決まっています。
その流れを理解することがレイアウト作業のキモになります。
一連の流れの理解を基本にカットごとに必要なことを描く。これが一体的にできていないと、つながりの悪い映像になってしまいます。
仮に1カットごとの「絵」が巧く描けていても、前提となる気持の流れが理解できていなければ、「映像」表現としてはヘタクソってことになるのです。

それぞれのカットの目的が最も実現される画面構成と動きが求められます。


アニメは絵コンテで編集済みの映像を描いていくものなので、余分なところを「つまんでいる」ことを意識することも重要で、余分な動きをつけてしまうと最終的な編集でせっかく描いたアクションがカットされることもあります。

よくあるのは、「ハッ!」と気付くアップのカットで、縮みの動きを長くとってたくさん原画を入れてくる例ですが、要りません。
きっかけは前カットに用意されているはずなので「気付いた表情」がメインなのです。
カット頭の動きが多ければ演出段階で原画を抜くか、編集で削除することになります。


上記5カットは、「フリクリ」6話の走り高跳びの場面に置き換えても同じ解説ができます。
あそこは絵コンテと原画を自分がやってるので、そういう意味ではブレがない作業になってるんですが…。
1:ニナモの決意の表情。ダッシュしてアウトする速い動き。
2:バー越しの正面の画で一旦速度感が消えるが、走りのテンポが上がる連れカメラワークで強調。
3:踏み切る動きの早い短いカットで弾みをつけて
4:バーを越えるスローモーション
5:バー越しの画に戻って着地し、向こうに見えるミヤジュンと生徒たちが喝采する。
ニナモに関しては、感情をストレートに出さない娘なので、達成感を本人の表情で出すのではなく、周囲の反応で表現しています。
踏み切る短いカットはいわゆる「カメラを逆に入れる」カットで、イマジナリーラインで考えると本当は間違いなのですが、ジャンプに弾みをつけるために動きの方向性を優先して、わざと逆に入れてます。左から右への動きを2カット連続させ、バーを越える右から左への反発力を強調する意図です。
見てもらえばわかりますが、ひとつひとつのカットでやってることは極めてシンプルです。


演出意図を明確にできていれば、レイアウト段階で必要な動きも見えてきます。


表層の見た目より前に、内奥を掘り起こす

というわけで
レイアウトとは、絵コンテから動きのある映像に翻訳する工程。演出から原画以降への橋渡しです。

場・時・気持
リズム感

それぞれ、場面に応じて優先度を決め、使い分けること。

何より、場面の意味を正確に理解することが大前提になります。
絵を描くこと、動きを作ること、それ以前がレイアウトにとって大事なところです。


余談ですが、やはり政治・経済の議論とよく似ています。
経済状況という場面が意味するところを正確に捉えないまま、政策論にこだわってしまうと結果を誤りますから。政治・経済に限らず、生活のあらゆる局面で似たようなことが起こりますけどね。

表層の現象よりも、元々の意味する内奥を掘り起こして考える。

理解する、というのは、肯定的に見なければいけないわけじゃありません。
「なぜ?」と疑問に思わなければ理解も深まらないものです。

何事も、完璧な出来、完全な正解、などありませんが、その都度基本に立ち返り、本質をおさえ直すことが肝要だと思います。
これは、若手新人、ベテラン関係なしに言えることでしょうね。
巧くこなすことより、失敗しても良いので本質を捉えようと挑戦し続けることが大事です。


「レイアウト」の定義。
絵コンテから、原画以降すべての工程へと演出意図を伝える橋渡し。
考え方としては、これで良いでしょう。
絵コンテの絵を上手に再現しようとするのではなく、内容の意味するところを考え明確にすることです。

どんな橋(レイアウト)を作れば良いのかは、演出意図を明確にできればおのずと見えてきます。
繰り返し実践して「見える化」を磨きましょう。




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