明らかになってきた「国家観」の乖離と今後のこと(前編) | Tempo rubato

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アニメーター・演出家 平松禎史のブログ

宇宙規模の財政出動を祈願して超長くなったので分割して投稿します。

衆議院選挙が終わりました。
与党は引続き安定多数を維持することになりました。

投票率52.66%、戦後最低を更新 総務省発表
http://www.asahi.com/articles/ASGDH32GSGDHUTFK002.html


投票率は戦後最低の52.66%だった。
最高記録だった’09年、民主党へ政権交代した時の69.28%から、安倍政権を成立させた’12年の前回は当時最低の59.32%。
今回は最低記録を更新したわけだ。

投票率が低いのは悪いこと?
ざっくり言って、自民党が安定多数を持っている時は投票率が低いと言えますね。
普段投票に行かないような人が奮起する時は野党に期待が高まるような、ある意味「異常事態」だとも言える。
日本において投票率が低いのはむしろ安定した良い状態なのでは?と思う。

投票率が急上昇する時と国民のルサンチマンが一致した時。
白/黒 0/1 反◯◯ 打倒◯◯ といった極論に偏った時が危険です。
民主主義を絶対善のように考えるのも危険です。
民衆を殺戮に巻き込んだフランス革命で民主主義は権力の根拠とされました。
革命的な変化は日本にはそぐわない。
ろくなことがないのは民主党政権が証明しましたから。

低投票率で問題とされるのは、議席を得るために組織票を得る体制が出来上がってしまうことだが、これとて、良し悪しは別にして根回しや談合が伝統的に行われてきた日本的な風習が今もある、ということでしょう。
後述しますが、国民と政治の基本認識が「まっとうな国家観」に向かっていけば、悪どい組織票も多数派になれなくなると期待できます。

日本は、強力な指導者に引っ張られるのではなく、土地ごとの国民の創意工夫で成り立ってきたような国なので、普段の生活に困らない範囲なら政治には無関心でいられる国民が多数なのだと思います。

酷い不作や大きな自然災害の時に頼りになりさえすれば良い。
政治のような漠たる大きなことはわからなくて良い。
政策論議の細かいことは気にしないわけです。

ボクが深夜によく行く鉄板焼屋さんにこんな「主張」が掲げられています。

小さな事は
  気にしない
大きな事は
  わからない


とてもおおらかで、気に入ってます。

でも、国民の多くがこんな風におおらかでいられるには、やはり「まっとうな国家観」が、理屈で言わずとも、気持ちとして共有できてないとマズイんでないかな。とも思うわけです。

振り子の揺れ戻し
すでに言われていることですが、自民党に議席が集中し民主党への失望から野党が全体的に不調だった前回からの振り子の揺れ戻しが起こったことも重要だと思う。

揺れ戻しに最も貢献したのは共産党。
民主党も11議席伸ばしたので前回比較では敗北といえないが、党代表が落選したのは民主党そのものへの期待が消えている象徴でしょう。

共産、民主への投票は、自民党の一人勝ちを防ぎたい意志の現れですね。
これも日本的な選択だな、と思います。

分裂して再構築された維新の党も減った分をほぼ補えているので一定の支持を得ているわけで、野党の中では比較的安定しているようです。

自民党は2議席減だが定数削減を考慮すれば現状維持。
共産、民主以外で4議席増やした公明党は投票率が低かったための相対的結果だと思える。

今回の選挙で大勝したのは共産党のみと言えよう。

明暗分かれた2党
全体的には大きな変化のなかった結果の中で、際立っているのは、上で述べた共産党の躍進と、次世代の党の壊滅的結果です。

48人の立候補者に対して、当選したのは園田博之氏と平沼赳夫氏の2人のみでした。

出来たばかりの党とはいえ、ネット上では期待が高かった。
ニコニコ動画<衆議院議員総選挙2014>政党チャンネル生放送・累計来場者数推移(2014年12月14日12時現在)
http://blog.nicovideo.jp/niconews/ni050076.html

上記サイト、政党ごとのチャンネル来場者数で注目度が推測できると思います。
次世代の党は自民共産に次ぐ3位の来場者数があったようで、かなりの注目度だったと言えます。

たちあがれ日本の系統「真正保守党」として「ネット保守」やいわゆる「ネトウヨ」の期待が高かった。
小選挙区は自民候補。比例は次世代で。という掛け声もネット上でよく見かけました。

しかし、結果は惨敗でした。

前回都知事選挙で61万票を得て注目された田母神俊雄氏も39,233票で4人中最下位に終わった。

保守層に多い「公明党分離」論。
つまり、憲法改正や靖国参拝、国防力強化の足かせになることが多い公明党との連立を解消させ、次世代の党で受け持とうという考え方に基づきます。

たぶん、勝つことは二の次だったと思います。
田母神氏は次世代の党ではなく、元々は太陽の党でした。
国防安全保障などで近いものの経済政策は参院の西田昌司議員のようなケインズ的政策で明確でしたから、ごった煮の次世代の党とは馴染みません。
次世代から出て、「打倒公明党」に寄ったために政策論が見えなくなってしまったのではないでしょうか。

「公明党分離」戦略は失敗だったのです。

次世代の党はなぜ壊滅的惨敗をしたのか
個人的には議席ゼロもあり得ると思ってましたが、さすがに自民党時代からの基盤が固いお二人は当選できました。

残念ながら、前回「たちあがれ日本」系候補が当選出来た理由は、「真正保守」や「ネット保守」「ネトウヨ」の支持ではなく、橋下代表の人気に支えられた「維新」のおかげだったわけです。

なんと言っても、あの号泣野々村竜太郎元議員ですら本家とは無関係な「西宮維新の会」を名乗ったおかげで当選できていたんですからね。
「維新」の風は凄まじかったのです。

次世代の党からでた候補者はそれを十分認識していたと思います。
ボクは中山恭子氏が落選したのが痛恨でした。
その中山恭子氏はチャンネル桜の番組で厳しい戦いになることを話しておられたのを記憶しています。
*コメントでご指摘がありました。
 中山恭子氏は参院議員なので間違いです。衆院選で落選したのは中山成彬氏でした。
 
ところが「次世代の党」という政党が何者なのか周知する時間がなく、ネットで話題になった「タブーブタの歌」も一般的な認知に至っていたとは思えませんし、生活保護費に占める外国人の比率では誤りがあった。
その誤り自体が知られていないんでしょうが、ネット上でもイメージを悪くした可能性はあります。
いわゆる「在日」排斥に誤解されかねない主張は、広く受け入れられるとは思えませんでした。

経済政策に注目する層としては、効果が相殺し合う政策が多すぎて目眩がしたものと思います。
自民党以上にごった煮で何をやりたいのかわかりませんでした。
思想と実務での「国家観」の乖離が顕著です。

旧たちあがれ系は維新と合流していた時と同様、経済政策への関心が薄い候補者が多かったのではないでしょうか。


次回、後編は「今後のこと」を中心に。