報告 | 【実録】ネコ裁判  「ネコが訴えられました。」

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ヨシコ     「どうだったい?」


店に帰るなりヨシコが問う。


タロウ     「………ああ……。」


ジャラン……

と……カウンターの上にポケットから握り出した20580円を無造作に広げる。


ヨシコ     「なにこれ?」

タロウ     「川畑が出した訴訟費用の確定分。」

ヨシコ     「裁判所のお達しのヤツかい?」

タロウ     「そう……。」


しわくちゃの2万円……そして小銭……。


タロウ     「……………。」

ヨシコ     「アンタが言ってた……その他の請求やら要求はどうしたんだい?」


普段ならワタシから切り出すところであるが……そうでない雰囲気を感じ取ったのか……ヨシコが問う。


タロウ     「ああ……前向きに考えるって……。」

ヨシコ     「そうかい……。」


帰り道……1分ほどで帰れる道のりだが……トボトボ歩いている間に少々考えた。


「もしワタシが、どこに頼る所も無くて……なにか重大な被害を受けたらどうするだろう……。」


幸いワタシには親も妻もいるし……何かあれば知恵もチカラも貸してくれる友達も常連さんもいる。

相談できる人は、それこそ山のようにいる。


自負ではないが全てはワタシを含む、我が家族の今までの実績や信頼の賜物であろう。


では……川畑はどうであろう?


店をオープンしてから4~5年。

親はいる様子であるが……その他に知恵やチカラを貸してくれる人はいるのであろうか?


彼も28歳ならば……古い友人や先輩などがいてもおかしくないとワタシは思うのであるが……

それはあくまでも「ワタシの物差し」でしかない。


「店の常連さん」ってヤツも……ウチの店のように「ベタベタ」のお付き合いをする店もあれば……

「クール」な人付き合いが売りのお店もあるだろう。



例えば川畑が……


1.クールな人付き合いのお店「カワバッタ」であっとして……相談できる常連さんがいない(又は作れない)

2.親も個人の権利を尊重してプライベートには一切口を出さないタイプ

3.腹を割って相談したり、悩みや弱い所を人に見せる事を「美徳」としない性格


                           ……であったとしたら……。



それでも「いきなり裁判」は「ワタシの物差し」では絶対にありえないのであるが……

そう考え出すと……「いきなり裁判」も「ちょっとはアリ」かもしれないと思えてきてしまう。


ヨシコ     「で……これで終わりなのかい?」

タロウ     「とりあえず……例の書類は渡してきたからさ……返答は2週間以内にって……。」

ヨシコ     「そうかい……。」


ひょっとしたら返答は来ないかもしれない。


それは即ち、「用件2と3は完全拒否」と言う意味ではあるが……なんとなく……

今日の川畑の態度や物言いからは「良い返事」が返って来るような気がした。


タロウ     「なあ……母さん……。」

ヨシコ     「なに?」

タロウ     「思うんだけどさ……。」

ヨシコ     「なんだい?」


帰り道に考えていた事の答えを探してみる。


タロウ     「用件3の謝罪文を提出してくれたら……用件2の費用の事は……

         『もういいかな』と思ってるんだけど……。」

ヨシコ     「ふむ……。」


ワタシをじっと見て様子を見守っている。


タロウ     「確かにウチが持ち出した分は結構あるけど……川畑もお金無いみたいだし……。」

ヨシコ     「まぁ……そうかもね……。」


裁判自体でも印紙代や郵送費用……友人とは言え証人の出廷費用もキチンと払っているかもしれない。

川畑が「勝てる裁判」だと万が一にも思っていたとしたら……ワタシに払った20580円でも予想外の手痛い

出費である。


タロウ     「『2も3も了承します』って返答が返ってきたら……2については弁護士代とミドリちゃんの

         バイト代以外は返してやろうかと思ってさ……。」

ヨシコ     「……………。」

タロウ     「『これに懲りたら今度からは軽はずみに裁判起すんじゃないぞ』って一言言って……。」


結局はそうである。

ミッションQの最大の狙いは『軽はずみに裁判を起さない』『いきなり訴えない』という環境を川畑に作る事。


ヨシコ     「ふむ……。」


とカウンターの上の20580円を手に取るヨシコ……。


ヨシコ     「いくら向こうから売られた喧嘩であっても……確かに御近所さんで逃げ道が

         全くなくなるまでボコボコにするってのも……後味悪いものだしね……。」

タロウ     「だろ?」

ヨシコ     「むこうが『すいませんでした』って素直に謝ってくれれば……

         『わかってくれればいいんですよ……コチラも少々悪かったね……』って

         譲ってあげる余裕が無きゃね……。」

タロウ     「……そう思ってさ……。」


ヨシコにはワタシの言わんとする所が伝わった様子である。


ヨシコ     「じゃあ……謝罪文だけ出してきたら……どうすんのさ?」

タロウ     「うん……。」


本当は持ち出した分くらいは貰っておきたい……おきたい……が……


タロウ     「まぁ……それはそれでいいかなと……元々、『いつ訴えられるか』って気にしてもらう為の

         要求だったし……。」

ヨシコ     「そうだねぇ……まぁ……裁判やってたアンタがそれで納得するなら……いいんじゃない?」


ワタシが裁判に関わる事をする度に……母ヨシコには随分大きな負担を強いた。


勿論、バイトのミドリや妻ユミコ……父ハジメに祖母のハナ……全ての家族に負担を強いたわけだが

穴埋めをしてくれた最大功労者は母ヨシコであろう。


タロウ     「ありがとう……。」

ヨシコ     「なにが?」

タロウ     「いや……なんでもない……ありがとう……。」


そのヨシコの了承が得られればワタシもこれ以上、川畑に望む事は無い。


タロウ     「じゃ……そういう事で……。」


と話を終わろうとしたその時……。

カウンターの上の20580円……もとい……ヨシコの手の中の20580円を……


ヨシコ     「ああ……そう言えば……アンタやってるインターネットの……ほら……

         本になるって言ってたヤツ……。」


とポケットにしまいながらワタシに話しかける。


「えっ?……ちょっと待って下さい……母様……。今までのイロイロな費用は全て……ワタシが

立て替えてますけど……どうしてその20580円を御自身のポケットにしまいなさるの?……母様?」


タロウ     「ああ……なに?」


その所作に戸惑いながら……生返事をする。


ヨシコ     「そのインターネットからアンタ……賞金って形でお金貰ってるんだろ?」

タロウ     「えっ!?……あ……さぁ……。」


妻のユミコにバイトのミドリ……これ以上ワタシの賞金がタカられても困る……

なので母ヨシコには内緒にしていたのであるが……。


ヨシコ     「ユミちゃんからも……ミドリちゃんからも……全部筒抜けですっ!!」


ああ……やっぱり……。


ヨシコ     「だからコレはワタシがミドリちゃんのバイト代の一部として回収します。」


そういう理屈であるか……。

ああ……酷い……酷すぎる。


さっきからずっと皿を洗いながら聞いていたミドリがクスクス笑いながら口を挟む。


ミドリ     「そうですよっ!タロウさんっ!!幸せは皆で分けないとっ!!

        タロウさんの賞金は皆の賞金です。」


確かジャイアンも同じような事を言っていたような気がする。


ヨシコ     「とりあえずソノ賞金で弁護士代を払ってもらって……あと……

         ワタシもちょっと欲しい物があるから……。」


「分ける」とは言っても均等では無い様子である。




以下次号。





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