第二回口頭弁論---その7---婦人 | 【実録】ネコ裁判  「ネコが訴えられました。」

第二回口頭弁論---その7---婦人

裁判官     「証人ご苦労様でした。」


この一言で「証人 引田くん」の証言は終わった。


裁判官     「証人はお帰り頂いても、傍聴席で傍聴されても自由ですので。」

引田くん    「はい。」


引田くん、ちょっとお疲れの様子である。

それもそうだ。

まだ20歳の若者だ…。繁華街の地べたで座っていてもおかしくない年齢だ……。


それが「簡易」とはいえ「裁判」の証人を果たしたのだ。

大役である。


「おつかれさん」

ワタシもそう思った。


そしてコチラにも収益はあった。

「ネコが宅内にあがってはいるものの、その状況から推察される『この家の飼い猫』」と言う証明。

「ネコは人なつっこくて知らない人でも1mまで近寄れる」事。


相手方が立てた証人から、ここまで得られれば上出来であろう。


……………………。


書記官が次の証人を連れてきた。

初老のご婦人である。


裁判官     「時間も押していますので……。手早くやっていきましょう」

書記官     「そうですね…。」


時計を見ると4時15分……。既に開廷から45分も経っている。


裁判官     「5時過ぎると……。エアコン止まりますから。」


この裁判官も茶目っ気たっぷりである。


………。


先程と同じように名前と年齢、住所に職業を聞かれる。

山本カズエさん。昭和9年1月8日生まれで御歳は……。

御婦人なので控えさせて頂く。

各自計算なさって頂きたい。


職業は無職。 「愛護動物の適正飼育を指導する会」 を運営しているらしい……。

会長である。


住所はカツヲ市ハマチ区………。

ウチのサンマ区からは少し離れている。


そして宣誓をした。


山本さん    「宣誓、私は良心に従い本当の事を申します。決して嘘や隠し事をいたしません。

          平成17年8月9日。山本カズエ」
裁判官     「もし嘘や隠し事をすると『偽証罪』で告訴される可能性がありますから、気をつけてください。
          知らない事は『知らない』で結構です。わからないことは『わからない』で結構です。」


先程と同じ事を裁判官は言った。


裁判官     「では原告、質問をどうぞ。」
川畑      「はい。では……。」


先程とは違って、少々動揺気味の川畑である。

引田くんの証言のショックが結構大きかったらしい。


川畑      「証人が証言するに当たって『中立的な立場』である事を裏付けるために、

          証人の活動やワタシとの関係などを御紹介ください。」

山本さん    「はい。………。原告の川畑さんとのきっかけは電話でした。

          これこれこういう事で「ネコ」で困っているから相談に乗って欲しいと………。」


ふむふむ。


山本さん    「で……。初めて会ったのはこの問題になっている駐車場でした…。」

川畑      「あ。山本さん。先に自己紹介のほうをお願いいたします。」

山本さん    「あ……。はい。」


なにやら資料を取り出した。


山本さん    「ワタシははじめ、こんな『愛護動物の適正飼育を指導する会』なんて、
          そんなだいそれた活動をするつもりじゃありませんでした。
          ネコだってそんなに好きじゃなかったし……。」

お。活動の説明である。

山本さん    「たまたま引っ越した先に野良猫がたくさんいて、たまたま近所がその猫たちに

          迷惑を掛けられていると……。それで近所の有志が集まって会を発足させたんです。」


ほうほう。

山本さん    「で、はじめは名前なんかも無くて…。『ネコの仲良し会』とか『野良猫対策会』なんて

          後から名前が出来てきて…。それからシンポジウムや何かに参加するようになって…。

          動物愛護協会にも名前を登録するようになりました…。

          1996年に『人と動物の共存』を目指し、99年に『動物保護法』が制定されてから…

          会を『愛護動物の適正飼育を指導する会』と改名しました…。」


まだ止まらない。

山本さん    「それから活動内容としましては…。野良猫を捕獲して虚勢や避妊手術をしたり…。

          貰い手の無い猫の里親を探してあげたり…。出来るだけ不幸な猫ちゃんが

          出ないようにと言う事に尽力してまいりました…。会のメンバーも次第に増えまして、

          共鳴してくれる方々の援助などを受けながら細々と活動しております……。

          …で、会の運営資金なんですが……これも実際は会員なんかの自腹で…

          国や行政からの補助金なんかは一切無く……………。」


しかしこの人、話が止まらない……。

ワタシもこの山本さんの話を「………。」で省略しているが、それにしても長い…。


それに活動費は、関係ないと思う…。

愚痴モードに入っている様子である。


裁判官     「……。あの証人。時間も無いことですので…。そのあたりで…。

          原告…活動内容のパンフレットや資料もあるんですよね?

          だったら後で書証として出してください。」

川畑      「わかりました。」


最初から出しとけ。川畑。

まぁ詳しい事は活動内容の資料を見てからだな…。


でも前に「タロウの感想」 でちょっぴり失礼な書き方をしてしまった。


山本さんごめんなさいである。


川畑      「では……現地で会った時の状況から話してください。」

山本さん    「ワタシが確か行ったのは、3月21日の午前中でした。

          一緒に赤井さんという人も行きました。………で、行ったら川畑さんが現地に見えていて…

          で…駐車場を探したらシロクロの可愛い猫ちゃんが車の下に寝そべっていました。」

川畑      「で、そのネコはどんな感じでした?」

山本さん    「そりゃあもう可愛い猫ですよ。毛艶も良くて人を見ても逃げませんし……。

          首輪もしていたと思います。」

川畑      「で、そのネコは野良猫だと思いましたか?」

山本さん    「いいえ~。とってもおとなしいし、先程も申しましたが首輪もしているので……。

          どこかこの辺りの家で飼われている幸せな猫だと思いましたよ。」


先程の引田くんとは異なり、山本さんは聞いたことに対して随分と喋る。

余計な内容まで喋る。

引田くんの場合は、「イエス・ノー」のように単純な返答であった。


これは年齢のせいなのか…性格なのかはわからないが、

とても柔らかな話し方で、おっとりとしたご婦人のようだ。


山本さん    「で……。この猫を30~40分見てたんですよ。駐車場の外からね……。

          そしたら暫くしてどこかに歩いて行ってしまったんです……。

          『あれ?どこに行ったんだろう?』と思ってましたらね……。

          この北側のおうちの庭にいたんですよ。」

川畑      「それからそのネコはどこに行きましたか?」

山本さん    「ええ…。それからその可愛い猫ちゃんはですね…。

          このお宅にあがってご飯を食べていました。」

川畑      「その時、この家のサッシや網戸はどうなっていましたか?」

山本さん    「ええ……。半分くらい開いていましたよ。猫ちゃんがピョンと上がっていきましたから。」

川畑      「で……。餌箱に餌が入っていて…それを食べたわけですね?」

山本さん    「そうです。勝手に他人様のお宅の中を覗くのは非常に心苦しかったんですけどね……。

          餌を食べてそれからのんびりしていました。猫ちゃん。」


川畑…。少し調子を取り戻したのか?

一生懸命自分の作った資料を見ながら質問している。


川畑      「以上の事から……。山本さん…。このネコはどこのネコだと思いましたか?」

山本さん    「すごくなついている猫ちゃんですし、ここの家でご飯も食べてるから……。

          ワタシはここの家で可愛がられている幸せな猫ちゃんだと思いましたよ。」

川畑      「なるほど。わかりました。」

山本さん    「……。ああ後……。『こういう事で川畑さんが困っている』と

          このお宅の方にお話しようと思ったんですけどね…。

          それはやっぱり当事者間でのお話ですので……。そこまで致しては失礼かと……。

          川畑さんにはご提案したのですが……。」

川畑      「……………。」


ほうほう提案したのか。


川畑      「裁判官。以上の証言のとおり『中立的な立場』である『愛護動物の適正飼育を指導する会』の

          山本さんの証言のとおり……。このネコは被告宅で飼育されてると判断されております。

          事実ワタシもそう思います。

          この様に家に上がり、餌を食べている以上…。このネコは被告飼育のネコです。

          原告の質問は以上です。」


大きく出たな。川畑。

ワタシが「飼っていない」といっている以上……。誰が「飼っている」と断定できよう?

それこそ勝手な推測からの断定ではないか?


裁判官     「ではワタシから2~3……。」

山本さん    「はい。」

裁判官     「調査はこの日だけですか?」

山本さん    「はいそうです。この日だけです。」

裁判官     「どれくらい調査しました?」

山本さん    「だいたい2時間くらいでしょうか?」

裁判官     「写真は撮りましたか?」

山本さん    「ワタシは撮っていませんが…。川畑さんが撮っていました。」

裁判官     「この被告宅にネコが上がって行ったのは一度きりですか?」

山本さん    「最初猫は、駐車場にいました。……それからこのお宅の庭に行って家に上がって

          餌を食べました。その後暫くのんびりして……。それから又、駐車場に帰ってきました。」

裁判官     「なるほど…。一回上がって、又駐車場に来たわけですね……。わかりました。」


暫く資料に何かを書いている裁判官。

川畑は「引田くん証言終了時」よりは落ち着いた模様。


裁判官     「では…ワタシからは以上です。被告……質問ありますか?」

タロウ     「はい。もちろん。」


さて……第二の反撃開始である。

                                       第二回その7 イラスト:

以下次号。