全国紙は郵貯と国債をどうしたいのか?~その2 | 柏駅から70チェーン

全国紙は郵貯と国債をどうしたいのか?~その2

昨日の続きです。

郵貯は、銀行と同じような貸出行うことが許されるでしょうか。

日銀によれば、2006年における民間銀行の貸出残高はおよそ385兆円。うち都銀が207兆、地銀が178兆円です。

さて、郵貯の資産総額を300兆円として、三菱東京UFJ銀行並みにその内5割を貸し出すとなれば、私のような零細自営業者にとっては万々歳ですが、そんなことをしたら、それこそ銀行のシェアを食ってしまいます。とわけ地銀は大打撃を蒙るでしょう。全銀協や信組信金にしてみれば、とてもそんなことはできない相談です。そもそも郵政民営化の議論の一つに、郵貯の縮小もしくは解体によって、官業による民業圧迫をどうにかしろという主張があったはずです。いうまでもなくこれは、全国紙と全銀協が繰り広げたものです。

しかし、現実に民営化に向けて動かしてみたところ、郵貯に集まった資金を吐き出させるのは容易ではありません。貸出という方法で考えてみても、影響はことほどさように大きい。

そもそも、国債運用額を減らすことは可能なのでしょうか。

まず、国債はどれだけ発行されているのでしょうか。財務省によりますと、2006年9月末で6,749,506億円。

対して、同じ9月における郵便貯金運用額の国債ならびに預託金を合わせると165兆円、また簡易保険の運用額における国債が638,365億円ですから、こちらは〆て229兆円。つまり国債発行残高の34%が郵便貯金と簡易保険で運用されていることになります。つまり、「預託金は順調に減っている=財政投融資と郵貯の関係は清算される方向で動き続けている」という一方で、郵政公社は、市中に出回っている国債に資金を投じて運用しているということになります。

さて、郵便貯金や簡保が国から直接引き受けた国債は、預託金という項目の分だけです。そして郵便貯金には、個人向け国債を除いて、国債を市中にばら撒くという役割はありません。つまり郵便貯金の運用先である膨大な国債は、郵便局以外の、どこかの誰かが市中にばら撒いたものだということになります。

それは一体誰がやったことなのでしょうか。

財務省の『日本国債ガイドブック2006』を参照しますと、平成18年度分の発行予定額165.4兆円のうち市中発行額が126.2兆円。この内訳は、123兆円が公募入札、残る3.2兆円が流動性供給入札という制度を経て市中に出回ります。この入札参加者は都銀、地銀、外銀、第二地銀、信託、信金、証券、生保などの各会社によって占められていて、郵便局は参加していません。あくまで現在の郵便貯金や簡易保険は、市中の一投資家として国債による運用をしているに過ぎないわけです。

郵政民営化が議論されている時に、財政投融資に流れる(特殊法人に流れる)金を止めるには、郵便貯金という蛇口を止めなければ駄目だというのがありました。しかしながら実際には、公募入札とか、また2006年以前にはシンジケート団引受という形で蛇口の役割を果たしていたのは、郵便局よりもむしろ市中の銀行や証券、保険会社だったのです。

230兆円もの国債といえど、日本国内でやり繰りできていますから、今すぐに問題がおきるというわけではありません。しかしこれだけの額を一気に売りに出すと、朝日社説が危惧するように、国債の市場価格が大きく下落するという危険があります。ですが、運用先を他に移すとなれば、この国債をどうにかしなければなりません。

どうしたらよいのでしょうね。

この、どうするべきかという問題は、郵政民営化を煽ってきた銀行業界や全国紙、そして民営化を実施に移した政府与党が責任をもって考えなければなりません。朝日新聞社説の如き、一緒になって煽っておきながら、今になって「具体的な事業計画を固め、その実現に向けた戦略を示さなければならない」などと他人に下駄を預けるような言説をおこなうのは、無責任を通り越して卑怯というものです。