イスラエルでは、思いのほかアラビア語が通用している。事実、この国ではヘブライ語とアラビア語の両方が公用語である。


イスラエル成立時に多くのパレスチナ人、つまりアラブ人が故郷を追われた。今日もつづくパレスチナ難民問題の原点である。しかし、故郷にとどまったパレスチナ人もいた。現在、その子孫も含めイスラエル国民の2割以上がアラブ人である。実数にすると200万人以上になる。ちなみにユダヤ人口は650万人ほどである。イスラエルのアラブ系市民はバイリンガルだ。二言語生活者である。ヘブライ語も話せばアラビア語も操る。


多数派のユダヤ人の多くも、ヘブライ語とアラビア語のバイリンガルである。イスラエルの成立後、多くのユダヤ人がアラブ世界からイスラエルに移住している。イスラエル政府がアラブ諸国のユダヤ人たちに、自分たちの国家への「帰還」を呼びかけたからだ。


また、イスラエル成立時にパレスチナ人がユダヤ人によって故郷から追放されたというニュースもあり、アラブ諸国でのユダヤ人の立場が悪くなった。身の危険を覚えたユダヤ人もいて、数多くがイスラエルへ移住した。


そもそもイスラエルの建国運動を担ったのはヨーロッパ系のユダヤ人であった。建国時のイスラエルの人口の大半はヨーロッパ系であった。ところが、建国後のアラブ世界からのユダヤ人の流入により、人口構成が大きく変わった。大雑把に言って、ユダヤ人口の半分は中東系の出身者となった。アラブ諸国からのユダヤ人は、アラビア語で生活していた。その結果、国民の過半数がアラビア語話者となった。アラビア語が通じるはずである。


>>次回 につづく


※2017年7月号の「まなぶ」に掲載された記事です。



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