放送大学で国際政治を教える著者が、中東で深まる混迷の要因と展望を解説する。細部にあえて踏み込まず「わかりやすさ」を重視している。


特に注目するのは、米欧など6カ国との核合意を経て経済制裁の多くを解除されたイランと、世界最大級の石油生産国サウジアラビアだ。このうちサウジを指して著者は「国もどき」と呼ぶ。イランのように長い歴史を持ち体制が確立した国家でなく、少数の王族が支配し「近代国家」の要件が伴わないというのだ。


サウジは従来、外交の舞台で目立たないように行動してきた。だが、国王の息子である若い副皇太子が国防や経済で大きな権力を握った。石油価格の下落とともに、冒険主義にもみえる軍事作戦や、実現性の低い経済改革に乗り出したと、著者は懐疑の目を向ける。仮にサウジが不安定になれば、イランの台頭とあわせて、中東全体が揺らぐという強い懸念を表明している。


中東は新たな「列強の時代」に入ったようだ。中東と距離をおく米国、その空白を突くロシア、中国といった域外大国のほか、エルドアン大統領に権力が集まるトルコ、軍部が力を持つエジプト、独立を目指すクルド人などがパワーゲームを展開する可能性を示す。中東の動きを世界情勢の一部と捉え、幅広い視点から理解するのに役立つ書だ。(NHK出版新書・780円)


※7/24に日本経済新聞に掲載された、『中東から世界が崩れる』の書評です。