IS掃討で欧米先進国が一致しているようですが、日本にはどんな役割が期待されているのでしょうか。


IS(イスラム国)との戦闘の主戦場はシリアです。これまでイランはシリアのアサド政権を、サウジアラビアは反アサド派を支援し、両者が争ってきました。一方、米国やロシアはその戦いを止め、両者のエネルギーを対IS戦に結集しようと努力してきました。昨年12月、ようやく関係団体が一堂に集まった会議が開かれ、今は、さあこれからという時期に当たります。


ところが今回、サウジアラビアとイランの関係が悪化した余波で、シリアでの両者の支持を受ける勢力の協調が、さらにむずかしくなりました。両国間の関係悪化をいちばん歓迎しているのはISでしょうか。まさに、このタイミングで日本の国連安保理での非常任理事国としての2年間の任期が始まりました。つまり2016年1月から17年末までの任期です。日本はイエメンの内戦の終結のために努力すべきでしょう。


さきにも見たように、シリアでは複雑な内戦が戦われています。国際社会の注目がここに集まっていますが、イエメンの内戦は、ある意味、放置されたままです。サウジアラビアなどのアラブ諸国が政府側を支援し、イランが反政府のホーシー派を支援しています。サウジアラビアなどの「有志連合」が大規模な爆撃を継続し、世界でも最貧国であるイエメンは破壊されつづけています。しかも米国は、有志連合に武器弾薬を輸出するなど補給面でもサウジアラビアを支援しています。しかし、イエメンはアフガニスタンのようにきびしい山岳地形の国です。人々は独立心が強く、武力では、ましては空爆だけでは制圧することはできません。このままではイエメンはサウジアラビアのベトナムになりかねません。米国は当事国となっており調停者の役割を果たせないのが現状です。日本は、米国以外の安保理のメンバーと力を合わせ、イエメン和平に動くべきです。戦争の続行はイエメンの人々にとって人道的な惨事です。またサウジアラビアの王制にとっては命取りになりかねません。同国内で、石油価格が低迷している時期での戦費の支出への批判が起こってくるのも時間の問題でしょう。イエメンの人々のためにも、サウジアラビアの安定のためにも、そして中東全体の安定のためにも、日本外交のイエメンでの活躍に期待したいものです。


-了-


※『まなぶ』2016年2月号に掲載された文書です。


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