●新たなる戦争の回避


さて、最初の問いに戻ろう。この合意は、なぜ歴史的なのだろうか。この合意の最大の意義は、イランとアメリカとの軍事衝突の可能性を大幅に低下させた点にある。アメリカはイランの核兵器保有は容認しない。それを阻止するためには、軍事力の行使を排除しないという立場をとってきた。つまり戦争をしてでも、イランの核兵器製造を阻止する構えだったのである。しかし今回の合意によって、イランが秘密裏に短期間で核兵器を製造することはできなくなったので、アメリカが軍事力を行使する必要はなくなった。つまり中東での新たな戦争の可能性は薄くなったのである。新たな戦争を防ぐのであるから、歴史的という評価は当然であろう。


そう評価を下しているのは国際政治の専門家ばかりではない。石油市場は戦争の回避とイラン原油の市場への復帰を見越して弱含みである。アメリカのオバマ大統領は、石油価格が現在の1バーレル50ドル程度から30ドルくらいにまで低下するのではないかとの期待を表明している。世界経済には明るい話題である。


軍事面での緊張も目に見えて低下しつつある。アメリカ海軍は、長年アラビア海に配備してきた航空母艦を移動させる方針を発表している。イランに対しての脅威の象徴であった空母がアラビア海からいなくなるのだ。


>>次回 につづく


月刊『公明』2015年11月号46~51ページ掲載の論考です。



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