ノルウェーを旅行してつねに感じるのだが、この国に貧しさは見えない。しかし同時に華美とか贅沢といった雰囲気もない。伝統的な質素で倹約を重んじる質実剛健な気風が残っている。じつは、こうした感覚が国際オリンピック委員会のさまざまな要求を嫌悪させたのかも知れない。


ノルウェー筋からのリークと思われる情報を元にイギリスの経済紙『フィナンシャル・タイムズ』が伝えたところによれば、国際オリンピック委員会は主催者にたかっているかのように要求を突きつけている。


たとえば、委員の一人ひとりに運転手つきの車、携帯電話、開会式と閉会式では貴賓室での豪華な料理とバーの準備、ノルウェー国王とのカクテル・パーティーなどなどであり、しかもその費用をすべてノルウェー側が負担する。ノルウェー側は、オリンピック開催の費用ばかりでなく、こうした誘致のための「特権」の提供の要求にもカチンときたようだ。


この報道で、国際オリンピック委員会なる組織に漂う腐敗臭が臭気だけでないと知れ渡った。ノルウェーのオリンピック開催国への立候補辞退は、国際オリンピック運動の舵取りをする人々の姿勢を批判する一撃でもあった。ノルウェーの決断は一部では、「金メダル」級の英断との評価もされている。


この報道から想像すると、他のオリンピック開催国は国際オリンピック委員会の特権的なサービスの提供要求をすべて受け入れてきたのだろうか。オリンピックの「おもてなし」とは、おもてのない裏ばかりの「接待合戦」なのであろうか。ワールドカップやオリンピックの誘致に多額のお金が動くとの嫌疑はかつてから存在した。ノルウェーの場合はお金を要求されたわけではないが、国際オリンピック委員会なるものの体質が見えた場面であった。ちなみにアジアには国債発行残高が、つまり国の借金が1千兆円を超える国がある。国民一人あたりにすると800万円以上の借金がある計算になる。2020年には、その国の首都で盛大にオリンピックが開催される予定である。


-了-


『まなぶ』(2015年2月号)42~43ページに掲載された連続エッセイです。



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