さて、尖閣諸島そのものに関しても緊張がつづいている。日本は、この問題への世界への広報を強化している。もっとも説得力のある議論は次の2点である。


まず、日本が尖閣編入を決定した1905年以来、1970年代に入るまで約70年間にわたって中国は日本の領有に異議を唱となえなかった。さらには沖縄をアメリカが統治している時期には尖閣諸島の一部が射撃訓練場として使用されていたが、これに対する抗議も行わなかった。国際法上では、日本とアメリカに対する中国の70年以上の沈黙は重い。なにをいまさら!と第三者にさえ思わせるほどの時間である。この件を日本が国際司法裁判所に提訴すれば日本の勝訴は確実だろうと考えられている背景である。もっとも中国が受けるかどうかは別問題だが。というのは、国際司法裁判所は、紛争国の双方が裁判に同意した場合のみに機能するからだ。片方が裁判を受け入れなければ、国際司法裁判所の力が及ばなくなる。


中国が尖閣にこだわる背景は、海底のエネルギー資源だろうとされている。他の要因には、その戦略的な位置がある。最近、中国は広い防空識別圏という空域を設定して、そこに入ってくる航空機への監視体制を強めつつある。


しかし問題は、中国大陸に設置されたレーダーでは、この広い空域全体をカバーしきれない。レーダーの電波は直進する。そして地球は丸いので、一定の距離以上は電波が届かない。もし尖閣にレーダー基地を建設できれば、中国の「視力」は格段に良くなる。


尖閣にしろ、あるいは小笠原諸島周辺での珊瑚の採取にしろ、中国の船舶の動きに日本政府は神経をとがらせている。現段階で日本政府は、海上保安庁のレベルで対応しようとしている。自衛隊の投入が中国との軍事衝突を招くのではないかと懸念しているからである。


となると、これからの日本の政策として予想されるのが、海上保安庁の大幅な増強である。これならば周辺諸国からの軍国主義の復活との批判も避けられる。ちなみに現在の海上保安庁の定員は1万3千人ほどである。海上自衛隊の定員が4万5千人なので海上保安庁はその3分の1以下である。


今年の夏、沖縄の辺野古の沖で基地建設に反対する市民が海上保安庁の職員に手荒く取り押さえられる映像が流れ、注目された。過剰警備との批判を招いた海上保安庁なので、手放しで喜ぶわけにもゆかない。人員や艦艇の増強と同時に、海の警察に相当する海上保安官に、国民の権利を守る意識を強く持ってほしいものである。領海と排他的経済水域ばかりでなく、国民の正当な平和的に抗議活動を行う権利をも守ってほしい。



舞鶴海上保安部所属のつがる型大型巡視船「だいせん」。
ヘリコプター1機を常駐させ、遠距離海域での任務に就く(2014年7月 筆者撮影)


-了-


『まなぶ』(2015年1月号)44~45ページに掲載された連続エッセイです。