昨年11月の暫定合意を踏まえ、イランの核問題に関する最終合意を目指す交渉が、この2月に同国と安保理常任理事国にドイツを加えたP5+1の間で開催された。両者は交渉の枠組みや議題などに合意した。3月に交渉が再開される。とりあえずは、夏までの交渉が想定されている。


交渉は始まったばかりであるが、最終的な合意の大枠は予想できる。一方でイランは低濃度のウラン濃縮を続け、同時により厳格な査察を受け入れる。他方で大国側は経済制裁を完全に解除する。交渉の最大のポイントは、大枠の中での詳細である。そして、その予想される合意を、それぞれの交渉団が自国に売り込めるかであろう。具体的にはアメリカの交渉団は、議会を説得する必要があるし、イランの交渉団はハメネイ最高指導者を含む国内の強硬派を納得させる必要がある。


この点では、最近のハメネイ最高指導者の一連の発言が気にかかる。まず交渉を楽観視していないとの発言があった。そして経済制裁に耐えられるように経済の抵抗力を強めるようにと命令を出した。交渉の不成立を想定しているかのようである。


ハメネイの発言は、少なくとも三通りに解釈できる。第一はストレートな解釈である。交渉は成立しないと思っている。だから制裁の続行にも耐えられる経済体制への移行を指示したのである。国民の落胆の度合いが大きくならないように、事前に警告を発したのである。


第二の解釈は、イランには「交渉の失敗への備えがある。安易な妥協はしない」との諸大国へのメッセージである。これによって、イラン側の交渉団の立場は強くなるだろう。「最高指導者は、譲歩を戒めている。これ以上は、譲れない」との議論を大国側に展開できるからである。


第三の解釈は、ハメネイが強硬な言葉を発したのは、イラン国内のタカ派をなだめるためであった。この点で想起されるのが、1970年代初頭のアメリカと中国の接近である。キッシンジャーの極秘の北京訪問の時期に毛沢東は、アメリカ帝国主義を批判する過激な発言を行っている。ニクソン大統領の特使を極秘に受け入れながら、同時にアメリカを批判したわけだ。その真意をキッシンジャーが訊ねると、「たまには空砲を撃つ必要がある」との旨を毛沢東が答えた。とキッシンジャーは、その回顧録で振り返っている。国内の反対派を意識しての反米発言だったのだろう。


ハメネイの真意は不明であるが、いずれにしろ最高指導者の納得する交渉結果を、イランの交渉団は、テヘランに持ち帰る必要がある。またアメリカの交渉団も、これでイラン核武装の脅威が少なくとも遠のいたと議会を説得できる結果が必要である。交渉は、実際の交渉の会場とテヘランとワシントンの三カ所で同時に行われ、そのいずれでも成功する必要がある。

(2月22日、記)


畑中美樹氏の主宰するオンライン・ニュースレター『中東・エネルギー・フォーラム』に2014年2月25日(火)に掲載された文章です。