イランのハメネイ最高指導者に関するアクバル・ガンジの評論によれば、革命以前のハメネイは、様々な思想的な潮流に触れている。


1953年にCIAなどが仕組んだクーデターで、民主的に選ばれたモサデク政権が倒されシャー(国王)の独裁が始まった。シャーはCIAやイスラエルの諜報機関モサドの支援を受けながらサヴァックと呼ばれる秘密警察を育成した。アメリカがサヴァックに関して援助をしたのは、共産主義者を一掃するためであった。シャーは、サヴァックを使って共産主義者を含む全ての反対派を一掃した。シャーの監獄は多様な反対派で満ちた。


実は、この監獄が多くの反政府活動家にとっては学びの場となった。「牢獄は革命の学校」という言葉がある。思想的な背景のない囚人は、ここで革命思想に染まる場合が多い。既に、ある種の思想的な背景を持っている囚人の場合は、ここで他の思想の潮流に触れる。興味を持って勉強をし始めると、監獄は他にすることのない最適の勉強の環境である。ブラック・ムスリムの説教師だったマルコムX、アルジェリアのフランスからの独立運動の勇士たちなど、牢獄は数々の革命運動家を生んだ。


さてハメネイは、牢獄の内外で様々な思想に触れた。しかし、何と言ってもイスラム神学を志していたのであるから、アラブ世界のイスラムの思潮に興味を抱いた。エジプトに発したムスリム同胞団の思想に強く惹(ひ)かれたようで、ハメネイは同胞団系のエジプトの思想家であるサイード・コトブの著作をアラビア語から自らペルシア語に翻訳している。コトブはナセル政権に殺された人物である。


ちなみにイランの宗教指導層のアラビア語のレベルは非常に高い。幼少の頃からアラビア語のコーランを暗記するような生活をしているので、ペルシア語訛りはあるものの、流暢に読み書き話す。もちろん古典アラビア語ではあるが。


アメリカが支持したシャーの政権の牢獄を経験したのであるから、ハメネイはアメリカを常に疑いの目で見ている。革命後のイスラム政権をアメリカが倒そうとしていると信じている。しかし、といって西側の全てを否定しているわけではない。西側の科学の進歩には称賛を惜しまないし、そこからイランが学ぶべきだと考えている。アメリカがイスラム世界の全ての問題の根源で、コーランが全ての問題の解決であるといった単純な世界観は抱いていない。(続く)

(1月29日、記)


畑中美樹氏の主宰するオンライン・ニュースレター『中東・エネルギー・フォーラム』に2014年1月31日(金)に掲載された文章です。


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