シリアの混乱に対しては、中国は外交的にアサド政権を支援してきた。つまり国連を筆頭とする国際社会による介入に反対してきた。中国は、ロシアと共に拒否権を行使して、アサド政権を一方的に批判して介入の地ならしとなりそうな決議案を安保理で葬ってきた。安保理の常任理事国の中ではロシアのアサド政権支援のみに注目が集まってきたが、こうした中国の動きの背景は何なのだろうか。


中国がロシアと共にシリアに関して守ろうとしているのは、アサド政権ではなく内政への外国の不干渉の原則である。もしシリアで人権が侵害されているというので、国連の介入が正当化されるのであれば、チベット人の人権が蹂躙されているとして外国が中国に口出す権利を認めることとなる。中国は内政不干渉の原則にこだわっている。


もう一つの中国のこだわりは、国内のイスラム教徒の問題と絡んでいる。シリアの反政府勢力の間で中国のウィグル人が軍事訓練を受けているからである。もしアサド政権が倒れてしまえば、シリアに恒久的な反中国のウィグル人の軍事訓練センターができてしまう。


シリアには世界各地のジハーディスト(過激派)がアサド政権と戦うために参集しており、ソ連占領時代のアフガニスタンを彷彿させる。その中に中国から駆けつけたウィグル人も混じっている。その数は百人程度と見られている。シリアで戦闘を経験したウィグル人が中国の新疆ウィグル自治区に戻ってテロ事件を起こした例も報告されている。


なお新疆ウィグル自治区は、165万平方キロメートルの広さがある。これは日本の約四倍でイランと同じ程度の広さである。歴史的には18世紀の清朝の征服によって中国の「領土」となった。人口は2千万を超えている。先住のウィグル人と移民してきた漢人の人口が拮抗しており、両者の間に対立が起こるという構造が存在している。2009年に両者の衝突があり200名の死者が出た。また今年の4月にも衝突が起こり、20名以上の死者が出ている。この事件に関連して8月中旬に2人のウィグル人に中国当局が死刑判決を下した。


なおウィグル人はトルコ語系の言葉を話す人々である。中国の紙幣をよく見ると、アラビア文字でトルコ語が表記されている。「中国人民銀行」と記されている。中国政府に認定された少数派の一つである。


ウィグル人の中には中国からの独立を求める声がある。中央政府の力の弱かった1933年と1944年には独立を宣言した歴史を持っている。現在、亡命ウィグル人の独立運動はトルコに拠点を置いている。

(8月17日、記)


畑中美樹氏の主宰するオンライン・ニュースレター『中東・エネルギー・フォーラム』に2013年8月19(月)に掲載された文章です。


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