1970──この数字は何か、ご存知だろうか。これは、2011年に中国の炭鉱事故で死亡した労働者の数である。中国には1万2千程度の石炭採掘の現場があり、11年には1200件の事故が起きている。そして、1970人が死亡している。これは中国メディアが報道した数字なので、じっさいにはもっと多いのではないかとの推測もある。いずれにしろ、中国という国が石炭を確保するために、払っている犠牲の大きさが痛ましい。


1978年に「改革開放」以来、歴史にも例を見ないほどの経済発展を遂げた中国は、世界の工場としての地位を確立した。しかし、この工場を動かすために膨大なエネルギーが必要である。


現在、中国のエネルギー需要が爆発的な勢いで伸びている。11年には総発電量でアメリカを追い抜き世界一となった。この年の世界のエネルギー消費の増加の7割は中国の需要増の結果である。しかも中国の場合、環境に負荷の重い石炭への依存率が高い。日本の経済産業省が出した11年度のエネルギー白書によれば、中国の全エネルギー消費の66%が石炭である。


パリにある国際エネルギー機関の最新の報告によれば、11年には23億トンという天文学的な量の石炭が中国で消費された。これは、世界で燃やされる石炭の47%に当たる。


石炭の消費は多量の二酸化炭素の発生を伴う。これが地球温暖化の大きな要因となる。中国の大気汚染の源泉と言えるであろう。北京などの大都市では、視界が悪くなり、健康に被害が出るほどの状況だと伝えられる。


中国の大気汚染軽減の方策として考えられるのは、環境負荷の軽いエネルギー源への転換である。たとえば、石油であり、天然ガスである。二酸化炭素の発生量が少ないという面からは原子力発電も、そうかも知れないが、日本から見れば、いずれも問題含みである。中国が原子力発電への依存を高めた場合には、事故が心配である。いったん事故が起きたさいには、偏西風に乗って放射能が日本に流れて来るだろう。


>>次回 につづく


連載エッセイ「キャラバンサライ(第15回)『中国のエネルギー事情』」、『まなぶ』(2013年3月号)42~43ページ