2013年2月10日、34回目のイランの革命記念日の式典でアフマドネジャド大統領が、テヘランの革命広場を埋める群衆に対して演説した。その中で「春万歳」と何回も繰り返した。この発言が、議論を呼んでいる。


というのは同大統領の側近のエスファンディヤール・ラヒーム・マシャーイが6月14日に投票が予定されている大統領選挙に立候補を予想されており、この「春万歳」というのが同候補のスローガンであるからだ。アフマドネジャド大統領が、そのスローガンを繰り返したことに関しては、批判者も多い。経済の冬の時代を持たらした大統領には、ふさわしくないという反論から、革命記念日を前に自分の側近を支持するような演説は、好ましくないとするものまで、批判の内容は多様である。


この発言の背景に関しての一つの解釈は、アフマドネジャド大統領の行動を以下のように分析している。アフマドネジャド大統領は側近のマシャイを今回の大統領選挙に出馬させ、四年後の大統領への復帰を考えている。これはロシアでプーチン大統領が一期のみメドヴェジェフに大統領職を譲り、その後に復帰した例を想起させる。


この解釈が正しければ、今回の春万歳発言は、アフマドネジャド大統領による大統領選挙への立候補宣言になる。次回の6月14日の大統領選挙ではなく、その次の、つまり4年後の2017年の大統領選挙への立候補である。イランの制度は大統領の任期を4年とし2回以上の連続した再選は認めていない。したがって2005年から大統領を務め二期目の任期の終わりが近づいていているアフマドネジャド現大統領には、次回の立候補資格がない。しかし、アメリカの大統領制度と違い、イランの場合は、連続でなければ、つまり一期空ければ、三期目を目指すことは可能である。これはロシアの大統領選挙制度と同じである。


「春」というのは、マシャイによれば隠れイマームの再臨を意味している。イランの国教であるシーア派十二人イマーム派の神学によれば、預言者ムハンマドの正統な後継者は12代続き、12代目が874年に姿を隠した。このイマームが、いつの日が正義の世を開くためにお戻りになる。現在は、イマームがお隠れになっている時代である。一つの時代の終わりを予言するようなスローガンである。

(2月15日、記)


畑中美樹氏の主宰するオンライン・ニュースレター『中東・エネルギー・フォーラム』に2013年2月19日(火)に掲載された文章です。


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