4か月後に迫った大統領選挙を前にイランの内政が熱くなっている。2013年2月3日の国会でアフマドネジャド大統領が、ラリジャニ議長の弟の会話の録音を流した。これが、汚職の証拠であると同大統領は主張した。同議長が発言を妨げたので、大統領が議場を怒って退出した。その直後に国会は労働大臣の弾劾投票を行い272名の議員の内の192名が賛成した。この経緯は国営放送のラジオで実況放送されていた。


この日アフマドネジャド大統領が国会に出席したのは、労働大臣の擁護のためであった。そこで大統領は、大統領が流したのは、ラリジャニ議長の弟の一人のファゼルが国営会社を有利な条件で買い取る交渉の映像の音声とされるものである。その音声によればファゼルは家族のコネを使ってテヘラン市の前の検事のサイード・モルタザビーに対する温情のある処分を約束している。モルタザビーは、2009年の大統領選挙で不正があったとして抗議した若者三名が刑務所で死亡した責任を問われている。


音声の主とされるファゼルは、会話は映像にかぶせられたもので、自分の声ではないとしている。またマフィアのような大統領のやり方を非難している。


大統領と国会議長の対立の背景には7月14日に予定されている大統領選挙がある。ラリジャニ議長は最有力候補と考えられている。逆にアフマドネジャド大統領は出馬できない。というのは、アメリカと同じように大統領の任期が4年であり、再選までしか認められていないからである。つまり最長でも2期8年しか連続しては大統領職には、留まれない。ということでアフマドネジャドは次の選挙には出馬できない。しかし、アメリカと違いロシアのように一期空ければ、つまり連続でなければ三選も許されている。現在までに、その例はないが、理論的にはアフマドネジャドが、プーチンがメドヴェジェフに一期だけ大統領を譲ったように、4年後に大統領に復帰する可能性は排除されていない。同様に、二人の元大統領であるラフサンジャニとハタミにも、その可能性は存在する。最高指導者のハメネイも元大統領ではあるが、最高指導者の方が大統領よりも強い権力を持っているので、ハメネイは大統領職には興味がないだろう。


いずれにしろアフマドネジャドが側近を大統領選挙に出馬させて影響力を温存させるシナリオは想定できる。しかし、権力の中枢にいる大統領と国会議長が国会で泥仕合を演じる様は、イスラム体制にとっては末期的な風景でさえある。

(2月5日、記)


畑中美樹氏の主宰するオンライン・ニュースレター『中東・エネルギー・フォーラム』に2013年2月6日(水)に掲載された文章です。


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