パレスチナ人の指導者アラファトは放射性物質によって暗殺されたとする内容の番組が、7月の初めにアルジャジーラによって放送された。これが大きな反響を引き起こしている。アルジャジーラは、過去9か月をかけて8年前に死亡したアラファトの死因を調査し、その内容を放送した。なお、この約50分の番組は、同局のホーム・ページにアップされている。


アルジャジーラは、未亡人のソーハからアラファトの使用していた下着や歯ブラシなどの提供を受け、これをスイスのローザンヌにある放射物理研究所に鑑定を依頼した。同研究所によれば下着に付着した体液などから微量のポロニウム210が検出された。ポロニウム210は、2006年にロシアの元情報機関員アレクサンドル・リトビネンコが、イギリスで殺害された事件でも使われている。リトビネンコはプーチンの批判者であった。


8年前の2004年にアラファトが死亡以来、急激な体調の悪化の原因が不明であったことから、毒殺説がささやかれてきた。またイスラエル側からは、エイズによる死亡との「情報」も流布されていた。エイズ説は否定されたものの、毒殺説は消えていなかった。


容態が悪化したアラファトは、パレスチナのヨルダン川西岸のラマッラーからフランスの病院に運ばれた。そして、そこで死亡した。同番組によれば、死因が不明であったにもかかわらずアラファトは死後解剖されなかった。また、さまざまな検査に使われた体液などは、ソーハ夫人の要求にもかかわらず、処分されたとして病院側からは引き渡されなかった。死因が不明の場合に解剖が行われないのは普通ではないという。また検査のサンプルが保存されないのも通常の手続きではないとアルジャジーラは報じている。


さらにアラファトの治療に関与したフランス人の医師団は、アルジャジーラとのインタビューを拒否している。その上、アラファトをラマッラーで治療していたヨルダン人、エジプト人、チュニジア人の医師も、同様にインタビューを拒絶している。謎は深まるばかりである。


パレスチナ自治政府は、アラファトの遺体を墓から掘り出して検査すると表明している。カタールに住む高名なエジプト人のイスラム法学者カルダウィー師が、遺体を掘り出しての検査はイスラム法に違反しないとの判断を既に示している。ポロニウム210の半減期は138日とされる。8年前の死亡であるので、既に21回の半減期を繰り返しており、その量は百万分の一となっている。早期の検査が行われなければ、ポロニウム検出の可能性が消滅してしまう。


もしポロニウム210が遺体から検出されれば、暗殺説が裏付けられることとなる。となるとイスラエルの犯行との見方が強まるだろう。また、実際にポロニウムをアラファトの食事などに盛った裏切り者は誰か。犯人捜しも始まるだろう。検査の行方が注目される。

(7月11日、記)


畑中美樹氏の主宰するオンライン・ニュースレター『中東・エネルギー・フォーラム』に2012年7月17日(火)に掲載された文章です。


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