具体的には27日からガザ地区で新しい有権者の登録を開始する。ガザ地区での新しい有権者の登録をハマスが拒否していることが、これまで両者の和解を妨げていたので、この面でのハマスの譲歩が合意を可能にした。


この時期にハマスが譲歩した理由は明らかではない。しかし、いくつかの要因を推測することはできる。ハマスはシリアの支持を失った。というのは、長らくシリアのアサド政権はハマスを支持してきた。そのアサド政権に対する反乱が昨年以来続いている。反乱を起こしているのは、シリアの多数派であるスンニー派である。スンニー派の組織であるハマスとアサド政権の関係は悪化せざるを得なかった。もう一つの外部的な要因はエジプトのムスリム同胞団の動向である。ムスリム同胞団は先の議会選挙で議席の過半数を制し、現在行われている選挙で大統領のポストをもうかがう勢いである。


このムスリム同胞団が、責任与党として穏健な現実主義的な顔を諸外国に見せている。イデオロギー色を薄めている。たとえばイスラエルとの断交を訴えたりはしていない。このムスリム同胞団が、西側諸国に対する微笑外交の一環としてハマスに譲歩を呼びかけたのではないかと推測される。


さらに考慮すべき要因は、ハマスのマシャール議長が最近行われた秘密の選挙で強い支持を得たとの報道である。マシャールは、以前よりも強い指導力を発揮できるようになったのだろうか。


付言すれば、両者の交渉はエジプトの仲介で進められ、合意文書は情報当局の本部で署名された。


なお両者の合意は、これまで何度も報道されてきたので、その実施に関しては懐疑的な見方も存在する。

(5月24日、記)


畑中美樹氏の主宰するオンライン・ニュースレター『中東・エネルギー・フォーラム』に2012年6月1日(金)に掲載された文章です。


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