2011年12月22日アメリカ政府が、アルカーエダの幹部ヤシン・アルスーリの拘束につながる情報に対して千万ドルを支払うと発表した。アメリカ国務省によれば、アルスーリは、2005年からイランを拠点に活動しており、アルカーエダの資金調達において重要な役割を果たしている。


同省によれば、クルド系でシリア生まれのアルスーリは弱冠29歳であり、多額の資金と多数のテロリストをペルシア湾岸地域からイラン経由でパキスタンとアフガニスタンに送り込んでいる。そしてイランに拘束されていたアルカーエダの要員を釈放させパキスタンに送り込んだ。またアメリカ財務省の対テロ問題の担当者が、アルカーエダとイランの上層部の間に合意が存在すると強調した。同省は、この点に関して信頼できる情報を有していると主張している。この千万ドルという懸賞金の額は、ビンラーディンの右腕で、その死後にアルカーエダのトップとなったアイマン・ザワヒリの首に掛けられている2千5百万ドルに次ぐ額である。


シーア派のイラン政府はアルカーエダと敵対関係にあるとされてきたので、アメリカの突然の発表は少なくとも一部では懐疑的に受け止られている。ちなみに25日にイラン外務省はアメリカの同国とアルカーエダとの関係についての主張に関して「全く根拠がない」と反論した。


なぜ、この時期にアルスーリの懸賞金が発表されたのか、明らかではない。イランに対する圧力強化の一環として意図されているのだろうか。もしアメリカの主張が正しいとすると、同国の敵であるアルカーエダとイランが協力しているのであるから、イランはアメリカの敵となる。これは、核問題などなくとも、イランを討つ大義名分になる。アメリカはイラン攻撃のアリバイ作りを始めたのだろうか。少なくともオバマ政権内部での対イラン強硬論の高まりを反映しているのだろうか。この件に関しては、イランに対する経済制裁を主導するアメリカ財務省が表面に出ている点も注目される。この発表は、確実にイランとの緊張を、さらに高める効果を持つだろう。


なおイラン海軍が、24日からペルシア湾の出入り口のホルムズ海峡で演習を開始した。多種類のミサイルの発射実験などが10日間にわたって予定されている。

(12月25日、記)


*畑中美樹氏の主宰するオンライン・ニュースレター『中東・エネルギー・フォーラム』に2011年12月26日(月)に掲載された文章です。


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