[そして皆、腐敗した]前回 のつづき)


そして勝利の日が、つまり権力奪取の日がやってくる。どのような体制が成立するであろうか。それは闘争を指導した勢力による権力の独占である。エジプトにおいては自由将校団であり、アルジェリアにおいてはFLNが、その主体となる。チュニジアにおいては独立運動を指導したブルギバ大統領であった。同じように独裁傾向の強い体制が成立した。


しかも新体制の人事においては、通常は論功行賞が行われる。仕事への資格や適性ではなく、闘争においての貢献が問われる。つまり戦闘で負傷したかどうか、刑務所に入った回数や、刑務所で過ごした期間などが、重要になってくる。こうした革命の勇士たちが、つまりアジ演説やゲリラ戦のプロが、経済運営において有能であるとは限らない。多くの場合は、良くても無能で非能率であり、悪くすると腐敗してしまう。権力を独占し批判勢力がいないのであるから、当然の帰結とも言える。権力は腐敗する。そして絶対権力は絶対的に腐敗する。こうして民族解放運動の勇士たちの体制が腐敗臭を漂わせ始める。


さて、アラブ諸国の多くでは、その強権的な体制は、次の世代に継承された。チュニジアの場合は、老衰した独立運動の指導者ブルギバ大統領(一九五六~一九八七年)に代わり、ベン・アリが後継者となった。ブルギバの二十一年の統治も長かったが、ベン・アリも長く権力の座を動かなかった。一九八七年から二〇一一年まで二四年間も、約四分の一世紀もの長きに渡って大統領職にしがみついた。流れぬ水は腐るとの諺(ことわざ)通り、政権は腐敗した。エジプトではナセルが一九七〇年に世を去ると自由将校団の同僚のサダトが権力を継承した。そしてサダトが一九八一年に暗殺されると次の世代のムバラクが独裁者となった。批判を許さない独裁的な体制と非能率な腐敗した経済システムが、そのまま引き継がれた。


自浄能力の欠如した体制は、国民の不平・不満を警察力で押さえつける。国民の不満は圧力釜の中のように蓄積される。爆発点に達するまで、蓄積される。その蓄積され警察力により圧縮されてきた不満に着火したのが、チュニジアの政変である。今、我々は、その爆発の連鎖を目撃している。


>>次回につづく


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* 改訂作業を進めている『現代の国際政治(’13)』の印刷教材の一部の草稿です。これまでに発表した論考に依拠しています。


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