2011年8月25日(木)の夕刻から東京虎ノ門の在京の米国大使公邸でイフタール(断食明け)の夕食会が開催された。今年の日本列島は8月1日にラマダン入りし8月末に明けた。イスラム暦は太陰暦なので、太陽暦では毎年期間がずれることとなる。イスラム教の信徒は夜明け前から日没までの間は一切の飲食を控える。毎日のラマダン明けの、つまり日没後の食事をイフタールと呼ぶ。そしてラマダン月の終わる最後の日の日没後はお祭りとなる。これをイード・ル・フィトルと呼ぶ。米国大使公邸で開催されたのは、イフタールの方である。


在京のイスラム諸国の大使館などからの招待客およそ百名が参加した。厳粛かつなごやかな会であった。参加者の中にはパレスチナ自治政府の在京代表、日本人のイスラム教徒、イスラム地域研究者、そしてイスラム諸国に詳しい自民党の小池ゆり子議員の姿も見えた。同議員は、小泉政権下で首相官邸でのイフタールの開催を勧めた人物でもある。それ以降、これが慣例化しており管総理も去る8月2日にイフタールを首相官邸で開催している。


日没の時刻になるとジョン・ルース米国大使が開会を告げ、直ぐに日本人と見受けられる人物による見事なアーザーン(礼拝の呼びかけ)が朗誦された。イスラム教徒は日に五回の礼拝を義務付けられており、その内の一回は日没時に行う。シリアで学んだという朗誦は、「アッラー(神)は偉大なり、私は証する。アッラー以外に神のないことを。私は証する。ムハンマドは、アッラーの御使いであることを。祈りに来たれ。救いに来たれ。アッラーは偉大なり」と、朗々と響き渡る声であった。感情を刺激するような見事な高音のアラビア語であった。これが、中東にいるのかと錯覚させるような雰囲気を醸し出した。


ルース大使と言葉を交わす機会があった。米大使公邸でのイフタールは、着任以来3回目で来年は同大使にとって最後になるという。つまりルース大使は、オバマ政権の一期目の終わりを待って辞任の意向のようだ。こうしたイフタールを世界各地の米大使館が主催しているようだ。これは、オバマ政権のイスラム世界との対話路線の反映である。ワシントンにおいてもクリントン政権時代からホワイト・ハウスでイフタールを主催するのが慣例となっている。


オバマ自身も含めて同政権が繰り返し発信しているメッセージは、米国とイスラムという構図から一歩踏み込んで、米国自身の中にイスラムが存在するという事実の強調である。なお東京溜池のアメリカン・センターでは9月1日に、米国に住む何百万というイスラム教徒の実情についての講演を予定している。


ちなみに、この大使公邸は、終戦直後に昭和天皇とマッカーサー将軍が会談した場所でもある。

(8月31日、記)


*畑中美樹氏の主宰するオンライン・ニュースレター『中東・エネルギー・フォーラム』に2011年9月2日(金)に掲載された文章です。



なるほどそうだったのか!!パレスチナとイスラエル
高橋 和夫
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