2011年2月2日付けのアメリカのABC放送のインターネットのページや2月4日付けのイギリスのガーディアン紙のインターネット版がムバラク一族の資産について報道している。そうした報道によればムバラク一族の資産は400億ドルから700億ドルに達する。


ムバラク大統領は空軍の幹部であった時代に軍事契約を通じて莫大な資産を築き、大統領就任以来、30年に及ぶ任期中に資産を不動産などに分散してきた。


ガーディアン紙は、エジプトに投資する外国資本のパートナーなることでムバラク大統領が資産を蓄積したと報じている。湾岸産油国の場合、外国資本は企業の51パーセントの支配権を地元市民に与えるのが通例である。エジプトの場合、この数値は20パーセントである。つまり、エジプトの場合には、このパートナーが何のリスクも取らずに資本も必要とせずに利益の2割を得る。ムバラク一族は、こうした面からだけでも年間1500万ドルを得ていると報道されている。


このパートナーの支配比率に関してはABCの報道は51パーセントという数字を引用している。根拠はイギリスのダーラム大学のクリストファー・デイビッドソン教授である。いずれにしろ、濡れ手で粟の蓄財である。


今回の政変を予言したとされる『最後のファラオ、オバマ時代のムバラクとエジプトの予測できない将来』の著者のアラディン・エラサールによれば、ムバラクの二人の息子は、チェーン・レストランである「チリ・レストラン」、現代自動車の代理店、チェコの自動車会社のスコダの代理店、そして携帯電話のボーダフォン、さらには高級ホテルや住宅などの企業の株式を所有している。尚、エジプトで19軒のチリ・レストランを経営するアメール・グループはムバラク一族との関係を否定している。また現代のエジプト法人も関係を否定している。


またムスリム同胞団の英語のホームページは、主要企業は純利益の5割をムバラク一族に差し出しており、その中にはマルボーロなどのタバコ会社、マクドナルドが含まるとしている。


一族の預金はイギリスやスイスの銀行に、そして所有不動産はロンドン、パリ、マドリッド、フランクフルト、ニューヨーク、ワシントン、ロサンジェルス、ドバイ、さらにはシャルム・エルシェイフなどの紅海の沿岸に点在している。


ムバラクの資産の凍結と海外資産のエジプトへの返還が、もし政権が倒れれば新政権の要求となってくるだろう。しかし、そうした恐れが、軍の幹部がムバラク追放に踏み切れない背景となっているのだろう。何故ならば、この層こそが、腐敗した体制下でムバラクと同じように潤って来たからだ。


(2月8日、記)


畑中美樹氏の主宰するオン・ライン・ニュース「中東・エネルギー・フォーラム」に2011年2月10日掲載された文章です。