2010年12月10日、突然にイランの税関がアフガニスタンに入る燃料輸送車の通過数を大幅に制限し始め、アフガニスタンでは深刻な燃料不足が生じている。


イラン産の石油は、アフガニスタンでの消費量の30%と推定されている。イランの税関は理由を説明していない。状況を憂慮したアフガニスタンのカーシム・ファヒム副大統領がイランを訪問した。その結果、2010年12月25日にイラン側が善処を約束した。しかしながら、その後も状況は改善されていない。アフガニスタン筋によると、「善処」の発表後も日に4台の燃料輸送車両しか通過を許されなかった。2011年1月3日には40台が通過したものの、既に千台レベルがイラン側で通過許可を待っていると報道されている。


アフガニスタンではガソリン価格が急騰しており、既にガソリンの在庫がなくなったスタンドも増えている。カブールなどの大都市への食料の輸送への影響も懸念されている。


ファヒム副大統領との会談でイラン側は、燃料がアフガニスタンのNATO軍に流れているとの懸念を表明したようだ。アフガニスタンは、そうした事実を否定しイラン側の理解を得たと認識していた。少なくとも米軍はイラン産の燃料は使っていない。イランの燃料を購入するのは米国のイラン制裁法を破ることになる。米軍はイラクからの燃料を使っている。と米国で出版されている『イラン・タイムズ』紙は伝えている。アフガニスタンへはパキスタン経由でも燃料が輸送されているが、最近これがターレバンに襲撃される事件が起こっている。昨年に東京でも講演したミシガン大学のファン・コール教授は、今回のイランの対応を国際的な経済制裁への報復であるとの見方を示している。


燃料輸送車の通過数の制限の問題は、これがイランで2010年12月19日から実施されている補助金の段階的な削減と関連しており、単なる技術的な問題であるともイラン側は説明している。しかし、その関連の詳細については説明がない。


なおイランのガソリンが補助金によって低価格に抑えられていたので、イランで安い燃料を購入して、周辺諸国に持ち出しての転売が広範囲に行われていた。イランの補助金は、実質上はパキスタン、アフガニスタンなどの周辺諸国のガソリン消費への補助でもあった。大産油国のイラクでさえ、道端でイランから持ち込まれたと思われるガソリンがプラスチックの容器に入れられて、通常のガソリン・スタンドよりも安い値段で売られていた。


イランにおける補助金の削減に反対する重要な勢力は、こうした「貿易」で潤っていた層である。補助金の削減とイラン国内でのガソリン価格の上昇は、こうしたガソリンの「私的な輸出」にも大きな打撃を与えたものと推測される。アフガニスタンの石油危機の理由の一端でもあろう。


(1月9日、記 1月14日掲載)


※畑中美樹氏の主宰するオンラインのニュースレター『中東・エネルギーフォーラム』(2011年1月14日)に掲載した文章です。


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