イラク安定化の英雄(前回 のつづき)
そしてマクリスタルの後任に、オバマはデービット・ハウエル・ペトレイアス将軍を任命した。新司令官のペトレイアスが同年8月にアフガニスタンに赴任した。
ペトレイアスという人物がオバマのアフガニスタン政策を左右する地位に就いた。この人物の動向が注目される。それでは、このペトレイアスというのは、いかなる人物であろうか。
ペトレイアスは、コーンウォールというニューヨーク州の村で1952年に生まれている。ハドソン川の河口に発達した都市ニューヨーク市から、80キロメートルほど流れを北に遡(さかのぼ)った地点にある風光明媚な地域である。直ぐ近くに陸軍士官学校で有名なウエスト・ポイントがある。子供の頃のペトレイアスは士官学校の校庭に忍び込んでは遊んでいた。
父は第二次世界大戦中にはオランダの商船の船長であった。後にアメリカに移民し、電力会社に勤めた。母はオハイオ州の名門オベリン大学を卒業している。大変な読書家で家庭を何千冊もの本で満たしていた。ちなみにオベリン大学の卒業生には、エドウィン・ライシャワー元駐日大使などもいる。神奈川県町田市にある桜美林大学は、オベリン大学へ留学した清水安三が第二次世界大戦後に創設した。オベリンを桜美林という綺麗な漢字に置き換えた校名である。
高校時代のペトレイアスは成績優秀な上にサッカーの選手であった。ペトレイアスの通ったコーンウォール高校には、退役軍人の教師もおり、ペトレイアスにウエスト・ポイント士官学校への進学を勧めた。それほど豊かな家庭でなかったので、士官学校の奨学金は大きな魅力であった。
子供時代から士官学校までのニックネームは「ピーチーズ」であった。「桃ちゃん」とか「桃太郎」といったニュアンスだろうか。ニックネームの由来は、その童顔であったし、またペトレイアスという名前の発音の面倒さであった。※1 1974年に優秀な成績で士官学校卒業し、その後は空挺部隊に所属して軍歴を重ねてきた。妻は、将軍の娘である。大学では、フランス文学を専攻している。※2 ペトレイアスによればフランス語はもちろんのドイツ語とイタリア語まで操る。※3
※1Cloud, David & Jaffe, Gregg The Fourth Star (Three Rivers Press, 2009)pp15-17
※2Robinson, Linda Tell Me How This Ends(New York, Public Affairs 2008)pp.47-83
※3Woodward, Bob The War Within : Secret White House History 2006-2008 (Simon & Shuster Paperbacks,2008) p.451
『海外事情』(拓殖大学)平成22(2010)年11月号20~37ページに掲載
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