2.石油は誰の物か?


(2)新憲法(前回 のつづき)


次の第112条の第1項が、連邦政府つまり中央政府が、地域政府などと協力して、現在生産中の油田の管理を行なうとしている。ここで、はっきりと地域政府に重要な役割が与えられている。また第1項は、収入の人口に応じた公平なる分配を定めている。同時に前政権下で損害を受け置き去りにされた地域に関しての特別の配慮も求めている。つまり北部のクルド地域と南部のシーア派地域の優遇を求めているわけだ。しかし何が、「公平なる分配」なのかについては具体的な指摘はない。この第112条の第2項は、石油政策の立案に当たっては、市場原理に基づき投資を奨励すると定めている。外国からの投資を前提とした文言である。


第115条は、連邦政府つまりバグダッドの中央政府と地方との関係を定めている。具体的には「連邦政府の排他的な権限と規定されていない全ての権限は」地方政府などに属するとしている。さらに「連邦政府と地方政府が共同で行使する権限に関しては、 地方の法律に優先権が与えられる。」


憲法の規定は明確である。外国の投資を歓迎し、地方地域政府に強力な権限を与えている。というよりは、そもそも連邦政府が地方に自治を与えるという前提ではない。全ての権力は、まず地方に属しており。たとえば外交や国家の安全保障などの分野の権限を中央政府に委託する。そうした発想である。つまりトップ・ダウンではなく、ボトム・アップであり、自治が与えられるという前提そのものを拒絶し、全ての権力が地域政府に属し、地方が逆に中央にそれを委託するという考え方である。前提がひっくり返されており、発想が逆転されている。そして中央と地域の法がぶつかった場合には、地域の法の優越を高らかに謳(うた)っている。こうして見ると、イラク石油法案は憲法の発想を忠実に反映している。イラク石油法案に反対する人々の多くは、実は憲法そのものに不満を抱いている。


>>次回 につづく