水木しげるのお奨め品:国民必読「総員玉砕せよ」(下) | モノゴトをオモシロくスルドく見る方法「かふてつの方丈記 」

モノゴトをオモシロくスルドく見る方法「かふてつの方丈記 」

  
How to look everythings essentially
or
Everythings gonna be alright

(続き)

 

ラストシーンでは丸山二等兵が遂に死に至り、跡には戦死者が累々と横たわる情景が、水木氏一流の手法で緻密にリアルに悲惨に描かれます。それは、冒頭部分の一見トボて淡々とした描写と見事な対象を以て示されます。
冒頭の「一見トボて淡々とした描写」が実は現実を冷徹に示していた事に、読者は気づくのです。

 

 -*-

 

この作品は当時のフツーの庶民が戦争に巻き込まれ、如何に悲惨な目に遭い、最期は悲惨な死を遂げてしまったという事実を、「死者の視点」で見事に活写しています。

 

この作品を読むと、戦争を知らない持代に生まれ育った私たちは、水木氏が教えてくれた戦争の実態を学び、後生に伝えていく義務があると、考えるに至ります。

 

そういった意味でも、『総員玉砕せよ』は全国民必読の書であり、古典として後生に残していかなければならない作品なのです。

 

講談社文庫で出てますから、未読のヒトは生きているウチに必ず読むこと。読まずに死んじゃった場合はバケて出て来てでも読んで下さい。

 

 -*-

 

この戦場体験は水木しげるに大きく影響を与えています。その後の作品の背景にもこの過酷な戦場体験が実はあるのです。だから、『総員玉砕せよ』を読んだ後に改めてゲゲゲの鬼太郎なんかを読むと、感じ方も一寸変わってきます。あの、一見トボけた水木マンガの雰囲気は、実は「一度は死ぬはずだったのに奇跡的に生還した者」としての一種の「悟りの境地」に裏打ちされていることが解るのです。

多分、死者に見られている、死者に支えられていると言う感覚が常にあったのでしょう。

 

----------------------------


水木しげるには小品でも良いのがあります。

国内外の短編小説をマンガ化したものにもイロイロと佳品があります。

 

中でも推したいのが、H.Gウエルズ【注】の短編「 The Door in the Wall 」(邦題はイロイロあるけど例えば「塀についた扉」とか)を日本を舞台にマンガ化した「丸い輪の世界」。

水木しげるの短編集を捜すと見つかりますが、これも絶品なので、捜して読んでみて欲しい。

 

あと、創元推理文庫怪奇小説傑作集5に収録されているゴーゴリの「妖女(ヴィイ)」も、場所を日本のお寺に置き換えてマンガ化しており、これも良いです。


----------------------------

 

ゲゲゲの鬼太郎、悪魔君、カッパの三平といったいわゆる人気作については今更書く事も無いとは思うのですが、悪魔君あたりについてはそのうち何か書くかもしれません。

 

おしまい。

----------------------------

【注】

H.Gウエルズは「宇宙戦争」や「タイムマシーン」でSFの祖として有名ですが、ファンタジックな短編を数多く書いており、これも非常に良いです。

例えば、上に挙げた「「塀についた扉」」とか、「魔法の店」とか、「水晶の卵」等々傑作が揃っています。「水晶の卵」は創元推理文庫怪奇小説傑作集に収録されていたと思う。

中でも好きなのが「魔法の店」です。どこかで邦訳が出ていると思うので、是非読んでみて下さい。

H.GウエルズはSF小説で有名ですが、一方で歴史学者でもあります。だから、H.Gウエルズの小説は歴史研究に基づいた洞察というか、一種の哲学に裏打ちされています。「モロー博士の島」なんかは知名度はイマイチながら直接的に哲学を感じます。(神学と言うべきかも知れませんが)

一方、ウエルズとよく比べられるのがジュール・ヴェルヌですが、ヴェルヌは優秀な物語の語り手と思っています。ウエルズとヴェルヌの違いはそんな所にあるんじゃなかろうかと思います。