(続き)
でもどうでしょう。
元自衛官の直接の不満の対象は、裁判所=司法当局であり、差し押さえを行った地域の行政当局であり、と言うことは政府です(末端部分ではありますが)。
そして、家庭、地縁・血縁・職場関係と言ったパーソナルながらも社会(世間)の住民も相手にしてくれない。
これに対して「暴力」を以て自分の主張をアピール(威嚇)しようとしたのが今回の事件であったとすれば、テロリズムの要件を満たしてしまっている。
なので、私は宇都宮市連続爆発事件はテロリズムであったと考えます。
-*-
でも実は、私自身、宇都宮市連続爆発事件をテロリズムだと断言してしまうことには違和感を持っています。
それは、繰り返しになりますが、「今回の事件は極めて私的な不平不満が動機となっており、イズムとしてのテロリズムからは遙か遠くにあるように思える」からです。
元自衛官自身、自分の犯行は極めて個人的なものでテロという自覚は無かったと思います。(にもかかわらず、上記考察によればテロとしての要件を満たしてしまっている)
-*-
今回のテロは普通?のテロとは異なる点が多々あります。
・普通のテロは思想・信条に裏打ちされているものだが、今回のテロに特段の思想性は見られない。むしろ全体から見れば些細な家庭内トラブルに端を発している。
・普通のテロは権力中枢をターゲットにしているが、今回のは権力とは言っても司法・行政末端への不満から生じている。
・普通のテロはテロ集団による組織犯行として行われるが、今回のは個人犯行である。
・普通のテロリストは若い者であることが多いが、今回のはお爺さんである。
つまり今回のテロの特異性は下記の点にあると言えましょう。
特段の思想も持たない普通のお爺さんが、家庭内トラブルをきっかけに政府末端機構への不平不満を募らせ、個人的にテロ行為に及んでしまった。
-*-
背景には、日本の社会を広く覆っている下記の諸問題があるように思われます。
DV・離婚等家庭内の諸問題、高齢化社会の問題、格差社会の問題、合わせ技として高齢者の貧困の問題、地域社会崩壊の問題 etc,etc,etc…
これらの問題は非常に身近で一般的であるが故に”テロリズム”なんてなものとは無縁に思われます。ところが宇都宮市連続爆発事件では”身近で一般的な問題”を背景としてテロ事件が生じてしまった。
日本の社会全体を広く浅く覆っている諸問題に起因して、ごくごく一般の市民(しかも高齢者)からホームグロウンテロリストを出してしまったと言う点で、宇都宮市連続爆発事件はある意味、日本のテロ事件史上のエポックとして特筆されるべきと思います。
-- 追記 --
宇都宮市連続爆発事件がテロ事件であったことは間違いないと思いますが、イズムとしてのテロリズムだったかと言われると正直あまり自信ありません。でもイズムを伴わないテロ行為というものがあるとしたら、これはこれで恐ろしいことだと思います。
(宇都宮市連続爆発事件はエポックメイキング的なテロリズムである 終わり)