$hashikawa's blog


※ 本屋大賞受賞作品「舟を編む」書評、前回の「amu1」の続きです。

言葉に耽溺する、世代をまたぐ様々な登場人物たちは、少し軽すぎるくらいに、
それぞれ分かりやすいキャラ設定ですが、テーマの堅苦しさに相反して逆に良い。

「用例採集カード」を片手に、どんな時でも言葉の存在が頭を離れない狂気じみた情熱と、
いちいち辞書的な思考になる不器用でめんどくさい人間性がどこか微笑ましい。


読み進むなかで、だんだんと辞書が身近に感じられ、語釈の話で作中にも出てきた、
【 愛 】【 男 】【 女 】とか、そういやどうなっているのかと、やっぱり辞書で調べていました。笑

「言祝ぐ」「やぶさか」「反芻」「言質」「めれん」「そらんじる」「蹉跌」など、
馴染みのない言葉や新鮮な語彙も多く出てきて、それがまた知的興奮で興味深い。

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「辞書は言葉の海を渡る舟だ」
「たくさんの言葉を、可能なかぎり正確に集めることは、歪みの少ない鏡を手に入れることだ」
「記憶とは言葉。曖昧なまま眠っていたものを言語化するということ」
「なにかを生み出すには言葉がいる。言葉によって象られ、昏い海から浮かび上がってくる」

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辞書を引くのは「goo辞書」や「Yahoo!辞書」などをデジタルにタイプする、
紙の温もりはなく、あたたかみと言えば少ないツールがメインになっています。

言葉を編みながら物語にシンクロしていき、辞書の存在や言葉の意義を再考することで、
ものづくりにおける情熱や愛情、組織としての運営や仕事力、チームワークなど、
見落としがちになった尊いものに再び気づくことができます。


気持ち良く泣いたり笑ったりできる作品で、読後感はなんとも清々しい。
日本人として、コミュニケーションには日本語を用いる身。

辞書の深遠さに気づき、言葉の偉大さを今以上に大切にし、「言葉という大海原」を
盛大に渡り行くためにも一読の価値ありで、言葉との出逢いを楽しめる人には特におすすめです。

人生の目的に情熱を注ぐこと、仕事に人生を賭けること。
生き甲斐と誇りを持った慈愛をキラキラと味わうことができます。


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深い藍色のカバーを外すと、そこには優しいタッチのイラスト。
ノスタルジックな「早雲荘」や「玄武書房 別館」の、邦画独特の風合いでの映画化など、
メディアミックスにも期待したいですね。